お問い合せ

田中角栄「上司の心得」⑥

● 郵政官僚が脱帽した東京タワー建設秘話

 

上司として積み重ねた経験、そこから生み出された知恵の蓄積を部下に

伝授できないようでは、部下から敬意、信頼を得ることは難しいと知り

たい。これでは、「親分力」とは対極にいる上司ということになる。

田中角栄がこうした〝凄い上司〟を見せつけ、部下を心服させた恒例は、

東京タワー(東京都港区芝公園内)の建設秘話に見ることができる。

田中は昭和32(1957)年7月、戦後初の30代の郵政大臣として初入閣を

果たした。それまで戦後復興のための道路、住宅などインフラ整備の

議員立法を立て続けに成立させ、その政治的能力の高さを示して来た

田中だったが、「郵政」には縁がなかった。ために、郵政省の役人たちは、

当初、「シロウト大臣」としてナメてかかったのだった。ところが、田中が

大臣に就任して間もなく、郵政官僚たちはその博学ぶりと知恵、剛腕ぶりに

脱帽せざるを得なくなるのである。

大臣就任から数日後、田中は郵政省の局長、課長ら数人と郵政省ビルの

屋上に出てみた。目の前に、建設中と思っていたテレビ塔が、なんとサビ

付いた鉄骨姿を見せているではないか。

田中が怪訝な表情を浮かべていると、傍らの文書課長がこう言った。

「じつは、あのテレビ塔は建築基準法違反で工事が止まっているのです」

これを耳にした田中は、間髪をいれずにこう答えたのだった。

「基準法か。よしっ、ワシが処理する。心配いらん」

当時、建築基準法による一般建物の高さ制限が地上31メートルだったのに

対し、テレビ塔は地上120メートルに展望台があったことで一般建物と

見なされ、違反として建築許可がストップしてしまっていたのだった。

傍らの郵政官僚たちは、田中が何を考えているのか、もとより知るよしも

なかった。これまで郵政省としてはお手上げ状態だっただけに、田中は

「心配いらん」と言うが、そばにいる官僚たちはいずれも疑心暗鬼

面持ちだったのである。

ちなみに、東京タワーの建設構想は、高度経済成長期の昭和30年初頭に

生まれた。折から、日本はテレビ時代を迎え、テレビ局の電波塔が乱立

するのではないかという難問が浮上していた。そうした中で、時の郵政省

電波監理局長だった浜田成徳が推し進めた、塔は各局か団結して関東一円を

サービスエリアとするという総合電波塔構想が固まったことに端を発して

いる。合わせて、当時、世界一の高さを誇ったパリのエッフェル塔(当時

312メートル/現在432メートル)より高い塔を目指すとし、当初、380

メートル設計とした。しかし、鮮明な画像を送るためにはアンテナの

揺れを最小限とする必要があり、建設を請け負った竹中工務店らが技術的

検討をした結果、塔本体253メートル、もその上のアンテナ80メートルを

加えての今日の333メートルとなったものだった。

さて、「よしっ、ワシが処理する」と豪語した田中だったが、それから

間もなく当時の建設省事務次官・石破二朗(石破茂・自民党元幹事長の

父)を呼び出すと、こう談判したのだった。

「君、建築基準法をつくったのはこのワシだ。テレビ塔は広告塔であって、

一般の建物ではないぞ。高さ制限の対象にはならんだろう」

建築基準法は、かつて田中が立案に参加、昭和25(1950)年5月、議員立法と

して制定されたものだった。結果、田中にとってはすでに自家薬籠中

官庁だった建設省の石破次官に展望台を広告塔と解釈させることで、建設の

再開を認めさせることができたのだった。

その東京タワーは、結局、昭和33(1958)年12月23日、当時の皇太子殿下

(現上皇陛下・平成の天皇陛下)と同じ誕生日に営業を開始することが

できた。ちなみに、塔の名称は公募され、「昭和塔」が一番多かったが、

時の名称審査委員長だったかつての活弁士で、文化人として活躍していた

徳川夢声の〝鶴の一声〟「平凡こそ最高なり」で、東京タワーと命名

されたものだった。平成30(2018)年、営業開始から60周年を迎えた東京

タワーは、同年1年間だけでじつに220万人の国外内の観光客を集めるに

至っている。

 

● 恒例

 

いつもきまって行われること。多く、儀式や行事にいう。また、その儀式や

行事。「新春恒例の歌会」「恒例によって一言御挨拶申し上げます」

 

● 博学

 

ひろく種々の学問に通じていること。また、そのさまや、その人。

「博学な(の)人」「博学多才」

 

● 剛腕

 

自分の考えを強引に押し通す力。「問題解決に―を振るう」

 

● 怪訝

 

納得がいかず、けげんに思うこと。

 

● 間髪

 

あいだに髪の毛1本も入れる余地がない意》少しの時間も置かないさま。

「質問に間髪を容れず答えた」

[補説]「間、髪を容れず」と区切る。

   「かんぱつを、いれず」「かんぱつ、いれず」は誤り。

 

● 疑心暗鬼を生ず

 

うたがう心が強くなると、なんでもないことが恐ろしく感じられたり、

うたがわしく思えたりする。

 

● 自家薬籠中の物

 

自分の薬箱の中にある薬のように、自分の思うままに使える物、または人。

「ワープロを自家薬籠中の物とする」

 

 

この続きは、次回に。

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