お問い合せ

田中角栄「上司の心得」⑬

金丸信いわく「大乱世の(出番は)梶山静六」

 

さて、その梶山は、田中が病魔に倒れ、やがて竹下登が天下取りに本腰を

入れ始めると、竹下の信任を得て次々に田中派議員に接触、竹下が立ち

上げることになる「経世会」参加への多数派工作の先頭に立った。

この梶山をして、「武闘派」との異名を取ったのはこの頃だった。

その竹下がやがて政権を取ったあと、竹下が派内で金丸信(のちの副総裁)と

組む小沢一郎と主導権争いを演じて派の内部分裂が鮮明になると、梶山は

あの怖いものなしだった小沢に対して、ピシャリ「君はやり過ぎだ。謹慎

だな」と、堂々、言い放ってみせたのだった。こうした「武闘派」梶山を

見ながら、金丸信は竹下政権後の政治状況によってのトップリーダーの

出番を、こう見立て、言ったのであった。

平時の羽田(孜)、乱世の小沢(一郎)、大乱世の梶山だ」

一方で、その梶山は、単なる「武闘派」ではなかった。陸軍航空士官学校で

戦火の恐ろしさを知る梶山は、例えば憲法に接触するような問題には常に

慎重だった。梶山は橋本(龍太郎)内閣で官房長官のポストにあったが、

このとき問題になったのが、折から中国の軍事演習拡大で台湾海峡が

緊迫したことからの、自民党内の「集団的自衛権」検討であった。

これに、梶山は極めて消極的な姿勢を示したのだった。

その後、筆者は梶山をインタビューする機会があったが、こう言って

いたのが印象的であった。「私の政治姿勢は、自らが体験した戦争の

苦しみを、二度と味わってはならないということに尽きる。

集団的自衛権の問題でも、多少の犠牲はやむを得ないというのは、やはり

私には受け入れられるものではない。また、私のことを『武闘派』と言う

人もいるが、半分は当たっていない。時に、大胆な決断はやるが、それ

までに細心の計画を立てている。要は、私は臆病なのだ。臆病だからこそ、

何事にも細心で臨んでいるということだ」

政界のみならず、あらゆる社会でも、いわゆる大物、成功者と言われる

人物は、一見、大胆豪放に見られやすいが、単なる〝荒削り〟の人物は

皆無に近いのである。むしろ、事にあたるに際して、梶山のように細心、

臆病的に臨んでいる場合が多い。大物、成功者たちの共通項と言っても、

決して過言ではないのである。〝大胆な上司〟は、一見カッコはいいが、

じつはいささか危なかっしい。

真の「親分力」発揮には、細心、時に臆病さえもが伴うものだと知って

おきたい。

 

● 武闘派

 

相手と妥協せず、暴力・武力を用いて自分の主張を貫こうとする考えの人。

 

● 鮮明

 

あざやかではっきりしているさま。

「鮮明な印象」「態度を鮮明にする」「旗幟 (きし) 鮮明」

 

● 平時

 

1. 変わったことのない時。平常。ふだん。「平時の体温」

2. 戦争や事変のない時。平和な時。「平時の備え」⇔戦時

 

● 乱世

 

秩序が乱れて戦乱や騒動などの絶えない世の中。

らんせ。「乱世を生き抜く」⇔治世

 

● 集団的自衛権

 

国連憲章第51条で加盟国に認められている自衛権の一。

ある国が武力攻撃を受けた場合、これと密接な関係にある他国が共同して

防衛にあたる権利。→個別的自衛権

[補説]日本は主権国として国連憲章の上では「個別的または集団的自衛の

固有の権利」(第51条)を有しているが、日本国憲法は、戦争の放棄と

戦力・交戦権の否認を定めている(第9条)。政府は憲法第9条について、

「自衛のための必要最小限度の武力の行使は認められている」と解釈し、

「個別的自衛権は行使できるが、集団的自衛権は憲法の容認する自衛権の

限界を超える」との見解を示してきたが、平成26年(2014)7月、自公

連立政権下(首相=安倍晋三)で閣議決定により従来の憲法解釈を変更。

一定の要件を満たした場合に集団的自衛権の行使を容認する見解を示した。

武力行使が許容される要件として、(1)日本と密接な関係にある他国への

武力攻撃により日本の存立が脅かされ、国民の生命・自由および幸福追求の

権利が根底から覆される明白な危険がある(存立危機事態)、(2)日本の

存立を全うし、国民を守るために他に適当な手段がない、(3)必要最小

限度の実力を行使すること、を挙げている。

 

● 大胆

 

1. 度胸がすわっていること。思い切りよくやってのけること。また、そのさま。

  「大胆に自説を述べる」「大胆なデザイン」⇔小胆

2. 図太いこと。ずうずうしいこと。また、そのさま。

 

● 豪放

 

度量が大きく、大胆で、細かいことにこだわらないこと。また、そのさま。

「豪放な性格」「豪放磊落 (らいらく) 」

 

 

 

この続きは、次回に。

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