田中角栄「上司の心得」㊴
・角栄流「発想の転換」の要諦は、俯瞰的視線と常識の放棄
前項の只見川騒動で見せつけた田中角栄の「発送の転換」でもう一つ
特徴的なのは、常に物事を俯瞰的に見るということだった。
例えば、議論が沸騰して行方が見えない場合、議論の軸からちょっと離れ、
事の全体像をもう一度、見直してみることである。
行き詰まった議論の突破口が、見えて来ることがある。
この〝手〟で田中はあらゆる難事を突破し、部下や周囲をサポートしては
信望を得た。永田町には、「困った時の角頼み」という言葉も流布して
いたのだった。田中が誰もが及びもつかなかった俯瞰的視線で難事を
打開したエピソードを、二つ挙げてみる。
一つは、本州-四国間を道路で結ぶ本州四国連絡橋(「本四架橋」)、完成
までの曲折の中でのことである。
本州と四国を結ぶ道路は、現在、明石海峡大橋を含む「神戸・鳴門ルート」、
瀬戸大橋の「児島・坂出ルート」、〝しまなみ海道〟と呼ばれる「尾道・
今治ルート」の3本ある。しかし、ここに至るまで、国会も含め「3本の
道路は税金の無駄遣いである」との議論が錯綜、なかなか工事着工までは
行きつかなかったものだった。
ここで、田中のお出ましである。田中はすでに首相を退陣していたが、
3ルート建設の国会議員を集め、こうブッたのであった。
「君たち、東海道には日本橋から京都まで、何本の橋が架かっているか
知っているのか。橋の先には道路が待っている。本州と四国を結ぶ道路は、
その先、全国につながることになるんだ。なぜ、これが税金の無駄なのか」
この論は、ある種〝スリカエ理論〟ではある。東海道全域に架かる橋の
数より、結果、経済も活性化するのだとしたのである。最終的には、
こうした田中一派の俯瞰的視線で反対派議員の了承を取り付けてしまったと
いうことだった。
● 俯瞰的
物事を一段高い観点から俯瞰するように、大局的・客観的に捉えること。
● 沸騰
盛り上がること。騒然となること。「世論が沸騰する」「人気沸騰」
● 難事
処理するのが困難な事柄。
● 信望
信用と人望。「信望の厚い人」
この続きは、次回に。