お問い合せ

田中角栄「上司の心得」㊵

新幹線駅名の〝大岡裁き〟

 

もう一つは、東京-新潟間の上越新幹線の敷設が決定したあと、駅の問題が

浮上したときであった。田中の地元・新潟県の燕市と三条市の間で、

どちらに駅を持ってくるかでモメた。

燕市は洋食器など金属加工で知られた職人の街、一方の三条市はそれを

売って歩く商人の街であることから、職人から商人が仕入れ値を安く買い

叩くことで、両市はあまり仲がよくなかったという経緯があった。

新幹線駅の誘致合戦も対立していた。

ここで、田中の俯瞰的視線、〝大岡裁き〟のが冴えたのである。

地元記者の証言がある。

「田中が出した駅名案は、『燕・三条』だった。そのうえで、名前が

燕市より下になった三条市に配慮し、駅の位置を少し三条寄りにした。

また、高速道路のインターチェンジの名前のほうは『三条・燕』として

バランスを取り、双方を納得させたものだった。

その後の選挙では、田中の両市からの票はともに上々となった」

田中はかつて、自らの政治的発想について、次のように語っていたことが

ある。「ワシは今日は今日で、タイムリーにものを片づけることを常に

心掛けている。明日、来年でも、同じ問題に対して別の解決方法が出て

きたら、そのとき初めて政策転換をすればいいじゃないか。

だから、そういう意味での判断は非常に早いということだ。

若い頃、設計図を描いていたときも、線は初めからぶっ書き、実線で

いったものだ。

よく昔の書の名人が木の看板に向かったとき、まず一気に書いてしまって

下のほうが残ったら木の残った部分を切り落としたという話があるが、

ワシの発想もすべてその方式だ。また、地価の問題にしても、建物を

2階建てから6階建てにすれば、地価は3分の1に下がったことになる。

10階建てなら、5分の1だ。『発想の転換』なんて言うが、物事を逆に

考えてみればいいということだ」

平成30(2018)年、ノーベル医学生理学賞を受賞した本庶佑京大特別教授も

言っていた。「(物事の)発想は、すべての常識を捨ててみることだ」

なるほど、物事の常識は、疑ってみることも必要のようだ。

田中の俯瞰的視線も、常識をはみ出したところの発想であることが分かる。

部下との議論で埒があかない局面に立ったとき、上司としていわゆる

常識から一歩はずれた判断を提示してみることも、意外な〝突破口〟を

得ることになると田中は教えている。それをもって、部下も愁眉を開き、

発想の間口を広げ、やがて育っていくということである。

 

● 俯瞰的

 

物事を一段高い観点から俯瞰するように、大局・客観に捉えること。

 

● 妙

 

いうにいわれぬほどすぐれていること。きわめてよいこと。

また、そのさま。「演技の妙」「自然の妙」「言い得て妙だ」

 

● 埒があかない

 

らちが明かない」とは、ものごとがいつまでたっても進展しない、

はかどらないという意味でよく使われます。 この「らち」は漢字で

」と書き、囲いや仕切りを意味します。2018/07/09

 

● 愁眉(しゅうび)

 

心配のためにしかめるまゆ。心配そうな顔つき。

 

● 間口

 

 研究・事業などの領域。「商売の間口を広げる」「間口の広い学者」

 

 

 

この続きは、次回に。

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