実践するドラッカー[行動編] ⑥
A lesson from P.F.Drucker
∵記録は現実をあぶり出す
時間の記録を一瞥しただけで、重要なこと、したいこと、自らの責任で
なすべきことに使える時間のまったくないことがあまりに明白になる。
『経営者の条件』—-p.60
成果が横這い、あるいは成果が落ちている人の時間の使い方を見てみると、
不思議と共通点があることに気づきます。
それは、数年前の時間の使い方と現在の時間の使い方が、ほとんど同じだと
いうことです。これらの人は、一時間当たりのアウトプットの質を高め
ること、つまり仕事の重要性のレベル上げることをほとんどしていません
でした。目先のことに追われ、重要なこと、なすべきことを後回しにして
いるのです。
何年も同じ仕事を抱えている人が多い組織は、注意が必要です。
一時間当たりの効率は上がるかもしれませんが、一時間当たりの成果の
向上は、あまり期待できません。
成果をあげるには、時間の使い方を変える必要があります。
時間の記録を見る前に、いま一度確認しましょう。
・いま行うべきことは何か
・重要なことは何か
その後で、時間の記録結果を見てください。これらの問いに応える行動に
どれぐらい時間を費やしていたでしょうか。
それが、あなたの時間の使い方です。
まずは現実を見つめるところから始めましょう。
コラム 時間管理は成果につながる
時間配分を抜本的に見直すことで、成果は劇的に変化します。
ある外資系金融機関のトップ営業として活躍しているAさんの例を
紹介しましょう。
Aさんはドラッカー教授の教えに感銘を受け、仕事の分類を見直し、
時間管理に着手しました。
□ まず、現実を知る
当初の課題は、忙しい割には売上げ目標を達成できていなかったことで
した。そこで、どこに原因があるかを突き止めるため、まず現実を知る
ことから始めました。何にどれくらい時間を使っているかを記録し、
正確に把握することにしたのです。
Aさんは、面談、会議、研修、出張、勉強会など、仕事からプライベート
まで主なイベントを五七項目に分け、どこに何時間使ったか、一月から
一二月まで、月単位で一年間をエクセルに入力し、分析しました。
すると、顧客開拓を目的とする戦略的面談には一年で四三八時間を費やして
いましたが、そこから成果につながったのはわずか一七件だったことが
判明しました。
「なぜ、こんなに成果件数が少なかったのか」
「どうすれば、この面談を成果につなげることができるのか」
そこで時間の記録を分析してみたところ、面談前の提案書づくりや紹介を
依頼するための根回しなど、事前の準備に十分な時間を割いていなかった
ことが見えてきました。つまり、準備不足のまま、アポイントの数だけは
多くこなしていたということです。
これが忙しいわりに成果が出ていない主たる原因でした。
□ 重要な行動を特定し、時間を集中させる
そこでAさんは、成果につながる行動を三つに絞り、集中することに
しました。
● 契約面談—契約という直接の成果を目指す
● 戦略的面談—顧客開拓、既契約者のフォローや友人・知人との情報交換等
● 提案準備—契約という直接の成果を目指すための提案書作成等の準備
特に戦略的面談では、アポイントの件数をいたずらに増やすよりも、むしろ
紹介入手と提案依頼につながりそうな人に絞ることにしました。
また、事前準備に十分な時間を割くとともに、成果を強く意識する問いを
立て、常にチェックすることにしました。
「この面談では、どんな成果を目指すのか」
「この人に自分は何が貢献できるのか」
「この面談は互いに有益なことがイメージできるのか」
「この提案では、何が貢献できるのか」
Aさんはこうした時間の計画と管理を、毎週日曜と月末に三○分ほどかけて
行っています。
特に重要な三つの行動について、実際に何時間使ったかを記録するだけ
でなく、「その面談から紹介入手はできたか」「提案の依頼を受けたか」
など、得られた成果を書き添えます。また、廃棄すべき項目はあったか
どうかもチェックし、翌週の計画に反映させます。
意外と難しかったのは、提案準備のために確保していた時間に、予定どおり
提案準備を行えなかったことだそうです。営業という仕事柄、人と合う
ほうを優先しがちであり、自分だけでできる提案準備の時間に、しわ寄せが
いってしまうことでした。こうした自分自身の傾向について把握できるのも、
時間管理のメリットの一つです。
Aさんがこの時間管理を始めてから、三か月で売上げは月平均二倍以上、
売上構成の中で最重要案件については契約件数が目標の三倍以上となり
ました。予想以上の結果に自身が一番驚いています。
● 一瞥
ちらっと見ること。ちょっとだけ見やること。
「一瞥をくれる」「一瞥しただけで、それとわかった」
● 横這い
物価・相場・計数などで目立った変動のない状態が続くこと。
「人口は―状態が続いている」
この続きは、次回に。