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ピーター・F・ドラッカー「経営者の条件」㊵

P.F. Drucker Eternal Collection 1

The Effective Executive

Chapter:3


 

第3章❖どのような貢献ができるか

 

□ 貢献へのコミットメント

 

成果をあげるには、自らの果たすべき貢献を考えなければならない。

手元の仕事から顔を上げ目標に目を向ける。そして責任を中心に据える。

 

貢献に焦点を合わせることが、仕事の内容、水準、影響力において、

あるいは上司、同僚、部下との関係において、さらには会議や報告の

利用において成果をあげる鍵である。

 

ところがほとんどの人が下に向かって焦点を合わせる。成果ではなく努力に

焦点を合わせる。組織や上司が自分にしてくれるべきことを気にする。

そして何よりも、自らがもつべき権限を気にする。

その結果、本当の成果をあげられない。

 

あるコンサルタントは、新しい客と仕事をするときに最初の数日を使って

先方のエグゼクティブに面会する。そしてコンサルティングの範囲や先方の

組織、歴史、社員について聞いたあと、「ところで、あなたは何をされて

いますか」と尋ねることにしている。ほとんどの者が「経理部長」「販売の

責任者です」と答える。時には、「部下が八五○人います」と答える。

「他の経営管理者たちが正しい決定を下せるよう情報を提供しています」

「客が将来必要とする製品を考えています」「社長が行うことになる意思

決定について考え、準備しています」などと答えるものはきわめて稀だと

いう。

 

肩書や地位がいかに高くとも、権限に焦点を合わせる者は自らが単に誰かの

部下であることを告白しているにすぎない。これに対し、いかに若い新入り

であろうと、貢献に焦点を合わせ成果に責任を持つ者は、最も厳格な意味に

おいてトップマネジメントの一員である。

組織全体の業績に責任をもとうとしているからである。

貢献に焦点を合わせることによって、自らの狭い専門やスキルや部門では

なく、組織全体の成果に注意を向けるようになる。

成果が存在する唯一の場所である外の世界に注意を向ける。自らの専門や

スキルや部門と、組織全体の目的との関係について徹底的に考えざるを

えなくなる。政策にせよ、医療サービスにせよ、自らの組織の産出物の

究極の目的である顧客や患者の観点から物事を考えざるをえなくなる。

その結果、仕事や仕事の仕方が大きく変わっていく。

 

ある大きな公立研究所であったことである。古参の出版部長が退職した。

研究所が設立された一九三○年代から働いていた。科学者でもなければ

文筆家でもなかった。彼の発行する広報誌については、プロの仕事では

ないという批判さえあった。後任には一流のジャーナリスが起用された。

そのおかげで広報誌は一見してプロ的なものとなった。ところが主たる

読者だった外部の科学者たちは読まなくなった。あるとき高名な科学者が、

研究所長に「前の出版部長はわれわれのために書いてくれていたが、

新しい部長はわれわれに向けて書いているようだ」といった。

実は、前の部長は「この研究所が成果をあげるうえで、どのような貢献が

できるか」を自問していた。その答えが「外部の若い科学者たちに、

この研究所に興味をもたせ一緒に働く気を起こさせること」だった。

そこで彼は、編集の焦点を研究所にとっての重要な問題、決定、論争に

絞った。所長と衝突することも一再ではなかった。誰にも譲らなかった。

「広報誌の価値はわれわれが気に入ることではない。外部の科学者が

何人研究所に入ってくれるかであり、彼らがいかに優秀であるかで

ある」と主張した。

 

自らの貢献を問うことは、可能性を追求することである。

そう考えるならば、多くの仕事において優秀な成績とされているものの

多くが、その膨大な可能性からすればあまりに貢献の小さなものである

ことがわかる。

 

この続きは、次回に。

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