ピーター・F・ドラッカー「経営者の条件」㊿+21
□ 上司の強みを生かす
成果をあげるには、上司の強みを生かさなければならない。
企業、政府機関、その他あらゆる組織において、「上司にどう対処するか」で
悩まない者はいない。実のところ答えは簡単である。
成果をあげる者ならばみな知っていることである。
上司の強みを生かすことである。
これは世間の常識である。現実は企業ドラマとは違う。
部下が無能な上司を倒し、乗り越えて地位を得るなどということは起こら
ない。上司が昇進できなければ、部下はその上司の後ろで立ち往生する
だけである。たとえ上司が無能や失敗のために更迭されても、有能な次席が
あとを継ぐことはない。外から来る者があとを継ぐ。
そのうえその新しい上司は息のかかった有能な若者たちを連れてくる。
したがって優秀な上司、昇進の早い上司をもつことほど部下にとって
助けとなるものはない。
しかも上司の強みを生かすことは部下自身が成果をあげる鍵である。
上司に認められ、活用されることによって、初めて自らの貢献に焦点を
合わせることが可能となる。自らが信じることの実現が可能になる。
もちろん、へつらいによって上司の強みを生かすことはできない。
なすべきことから考え、それを上司にわかる形で提案しなければならない。
上司も人である。人であれば強みとともに弱みをもつ。しかし上司の強みを
強調し、上司が得意なことを行えるようにすることによってのみ、部下
たる者も成果をあげられるようになる。上司の弱みを強調したのでは、
部下の弱みを強調したときと同じように、意欲と成長を妨げる。
したがって「上司は何がよくできるか」「何をよくやったか」「強みを
生かすためには何を知らなければならないか」「成果をあげるためには、
部下の私から何を得なければならないか」を考える必要がある。
上司が得意でないことをあまり心配してはならない。
部下は上司を改革したがる。有能な高級官僚は新任の閣僚に対する指南役を
自任しがちである。そしてもっぱら限界を克服させようとする。
しかし成果をあげる官僚は「新長官は何ができるか」を考える。
そして「議会や大統領や国民との関係づくりがうまい」のであれば、
そのような能力を十分に使わせるようにする。優れた政策や行政も、
政治的な手腕をもって議会や大統領に提示しなければ意味がない。
しかも新閣僚は、官僚が彼を助けようとしていることを知るならば、
政策や行政についての説明にも耳を傾ける。
上司もまた人であって、それぞれの成果のあげ方があることを知らなければ
ならない。上司に特有の仕事を知る必要がある。
単なる癖や習慣かもしれない。しかしそれらは実在する現実である。
● 更迭
ある地位・役目にある人を他の人と代えること。「大臣を―する」
● へつらい(へつらひ)【×諂い/×諛い】
へつらうこと。おべっか。追従 (ついしょう) 。
● へつらう
人の気に入るように振る舞う。また、お世辞を言う。おもねる。
追従 (ついしょう) する。「上司に―・う」
● おもねる【×阿る】
人の気に入るように振る舞う。へつらう。「上役に―・る」
● 追従 (ついしょう)
他人の気に入るような言動をすること。こびへつらうこと。
また、その言動。「お―を言う」「顧客に―する」
● 指南役
1. 物事を指南する役。
2. 「指南番」に同じ。
● 指南番
昔、幕府や大名などに仕えて、武芸などを教授した役。指南役。
この続きは、次回に。