P・F・ドラッカー「創造する経営者」②
本書は、三部に分かれる。
第I部が最も長く、分析と理解に重点を置いている。そのうち第I章は、
企業の現実、すなわちいかなる企業においても、常によく見られる状況に
ついて述べた。続く第2章、第3章、第4章では、企業が成果をあげるべき
領域について分析し、それらの領域と、資源や業績との関係、機会や
期待との関係について述べた。第5章では、個々のその活動について、
コストの流れと構造を分析した。
第6章と第7章では、成果や資源が存在している外部の世界から見た企業に
ついて述べた。この二つの章では、「何に対して支払いを受けるか」
「何によって食べさせてもらうか」を尋ねている。
第8章は、第I部全体の分析を総合して、事業の特性、成果をあげる能力、
機会とニーズについての理解をまとめた。
第II部は、機会に焦点を合わせ、意思決定について論じている。
企業の三つの種類の活動に関して、それぞれの機会とニーズを述べている。
すなわち、第9章は今日の事業の業績をあげることについて、第10章は
潜在的な機会を発見し実現することについて、第11章は明日のために
新しい事業を開拓することについて述べた。
第Ⅲ部は、洞察と意思決定を成果に結びつける方法について述べている。
第12章は、そのための条件として、企業の理念と目標、求めるべき卓越性、
優先順位の決定に関わる基本的な意思決定について述べた。
これに加えて第13章は、いかなる機会を追求し、いかなるリスクを覚悟
するか、いかに専門化し、いかに多角化するか、新設か買収か、事業と
その機会の性格からして、いかなる組織構造が最適化について戦略的な
意思決定が必要であることを述べている。第14章は、成果をあげるために、
企業家的な意思決定のメカニズムをいかに組織構造に組み込むかについて
述べた。意思決定のメカニズムをいかに仕事や仕事の仕方、組織の精神や
人事に組み込むかについて論じている。
そして終章は、それまで述べてきたことを援用して、経営者とそのコミット
メントについて述べている。
伝承を知識にまとめ、思考を体系にまとめることは、人間の能力を卑し
めてマニュアルに置き換えることと誤解されがちである。
もちろんそのような試みはばかげている。愚者を賢者に、無能を天才に
変える本はない。
しかし、体系的な知識は、今日の医師に対し一○○年前の最も有能な医師
以上の能力を与え、今日の優れた医師に対し昨日の医学の天才が想像も
できなかった能力を与える。いかなる体系も、人間の腕そのものを伸ばす
ことはできない。しかし、体系は先人の力を借りて常人を助ける。
常人に対して成果をあげる能力を与える。有能な人間に卓越性を与える。
経営者には経済的な職務がある。そして事実、経営者のほとんどが、
そのためによく働いている。多くの場合働きすぎなくらい働いている。
本書は、彼ら経営者に対して何か新しい仕事を課そうとするものではない。
それどころか本書は経営者が、より少ない労力とより少ない時間で、
より大きな力を振るう助けとなることを目的としている。
本書は、仕事を適切に行うことについては述べていない。
なすべき仕事は何かを見つける助けとなることを目的としている。
カリフォルニア州クレアモントにて
ピーター・F・ドラッカー
● 潜在的
外からは見えない状態で存在するさま。「―な勢力」
● 洞察
物事を観察して、その本質や、奥底にあるものを見抜くこと。
見通すこと。「人間の心理を―する」「―力」
● 卓越性
広辞苑によると、「”卓越”とは、他にぬきんでてすぐれていること。
ひいでること」とある。
つまり、”卓越性”とは、抜きんでた実力のことである。
● メカニズム(mechanism)
機構。仕組み。メカ。「人体の―」
● コミットメント(commitment)
1. 約束。誓約。公約。確約。「近隣諸国との―を守る」
2. かかわり。かかわりあい。関与。介入。
「政治への―の意思を明確にする」
● 伝承
1. 伝え聞くこと。人づてに聞くこと。
「浪士数百名島津泉州に就 (つき) て暴挙の企あるの趣、疾くも―
為 (し) たりしかば」〈染崎延房・近世紀聞〉
2. ある集団の中で、古くからあるしきたり・信仰・風習・言い伝えなどを
受け継いで後世に伝えていくこと。また、そのようにして伝えられた事柄。
「郷土芸能を―する」
● 思考
考えること。経験や知識をもとにあれこれと頭を働かせること。
「―を巡らす」「―力が鈍る」
● 卑しめる
下品な、とるに足りないものとして見下げる。軽蔑する。さげすむ。
「自分自身を―・める行い」
この続きは、次回に。