お問い合せ

『成しとげる力』⑰

○ 長時間労働から知的ハードワーキングの時代へ

 

○ 「現場・現物・現実」を見ることなく経営を語るな

 

さて、これまで時代を大きく俯瞰する「鳥の眼」について述べてきた。

そして、鳥の眼でとらえた時代の変化を読みとき、潮流に乗って新しい

波を起こしていくためには、もう一方の「虫の眼」が必要である。

「虫の眼」とはどういうものか。小さな虫のように地べたに張りついて、

どんな小さな変化も見逃せない眼である。

 

経営において基本中の基本となるのが、「現場・現物・現実」の

〝三現〟を正しく把握することである。これをせずに机上の空論を

振り回す人が多いが、これでは評論家が経営しているに等しい。

かつて私は買収した子会社も含め、すべての工場を定期的に回り、

この目で確認していた。その際には、幹部から現場で働くあらゆる

立場の人たちとともに食事をしながら、本音で語り合った。

 

そこまでするのは、小さな問題を見逃さないようにするためだ。

どんな大きな問題も、突き詰めていくと小さな問題の集積である。

長年の惰性な習慣やいいかげんな考え方が、やがては会社を傾ける

大きなマイナスに膨れ上がっていく。

会社も個人も、少し調子に乗ってくると、すぐにおごりや横柄な姿勢が

出てくるものだ。また、同じような仕事を続けていると、マンネリや

ムダが生じたり、時間にルーズになったりする。

したがって、「虫の眼」でそうした細かな問題を、地を這うように一つ

ひとつ見極め、拾い上げていく必要があるのだ。そのような現象を

チェックする物差しが〝6S〟(整理・整頓・清潔・清掃・作法・躾)だ。

 

これまで私が見て一流企業には、いくつかの共通点があった。

社内の清掃が行き届いていて、整理整頓が徹底されている。

約束の時間をしっかり守り、訪問者を待たせない工夫がなされている。

受付での対応から始まり、お会いしたり廊下ですれ違ったりする社員

たちの言葉遣い、行動の仕方、身だしなみがすばらしいことである。

働いている社員たちの意識、すなわちEQ値が高いのである。

 

一方、業績の悪い企業はオフィスが雑然としており、工場はゴミで

汚れている。社員の身だしなみも乱れているし、来客の対応もなって

いないことが多い。

こうした一つひとつのことに細かく注意を向けることで、ムダや非効率を

排除できる。同時に時代に合わなくなった行動パターンを改善し、会社の

体質を少しずつ改善していくことも可能になる。

このことが結果的には大きな革新や創造につながっていくのだ。

これまで多くのM&Aを行ってきたが、先に述べたとおり、傘下に入った

会社に対しては経営陣を入れ替えたり人員整理をすることはない。

それまでその会社で働いてきた顔ぶれを変えず、彼らのEQ値を高める

べく意識改革を行うのである。

 

● 俯瞰

 

俯瞰(ふかん)とは、「高いところから見下ろすこと」を表す言葉です。

そこから転じて、「全体を把握すること」の意味で使われることも

あります。

 

● 机上の空論

 

頭で考えただけで、理屈は通っているが実際にはまったく役に立たない

議論や計画のこと。

 

 

この続きは、次回に。

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