「道をひらく」松下幸之助 ⑲
・本領を生かす
完全無欠をのぞむのは、人間の一つの理想でもあり、またねがいでも
ある。だからおたがいにそれを求め合うのもやむを得ないけれども、
求めてなお求め得られぬままに、知らず知らずのうちに、他をも苦しめ、
みずからも悩むことがしばしばある。だがしかし、人間に完全無欠と
いうことが本来あるのであろうか。
松の木に桜の花を求めるのはムリ。牛に馬のいななきを求めるのもムリ。
松は松、桜は桜。牛は牛であり馬は馬である。
つまりこの大自然はすべて、個々には完全無欠でなくとも、それぞれの
適性のなかでその本領を生かし、たがいに与え与えられつつ、大きな
調和のなかに美とゆたかさを生み出ししているのである。
人もまた同じ。おたがいそれぞれに完全無欠でなくとも、それぞれの
適性のなかで、精いっぱいその本領を生かすことを心がければ、大きな
調和のもとに自他ともの幸福が生み出されてくる。この素直な理解が
あれば、おのずから謙虚な気持ちも生まれてくるし、人をゆるす心も
生まれてくる。そして、たがいに足らざるを補い合うという協力の
姿も生まれてくるであろう。
男は男、女は女。牛はモーで馬はヒヒン。
繁栄の原理はきわめて素直である。
● 完全無欠
欠点や不足が全くないこと。 完璧なこと。 非の打ち所がないこと。
・くふうする生活
とにかく考えてみること、くふうしてみること、そしてやってみること。
失敗すればやりなおせばいい。やりなおしてダメなら、もう一度くふうし、
もう一度やりなおせばいい。
同じことを同じままにいくら繰り返しても、そこには何の進歩もない。
先例におとなしく従うのもいいが、先例を破る新しい方法をくふうする
ことの方が大切である。やってみれば、そこに新しいくふうの道もつく。
失敗することを恐れるよりも、生活にくふうのないことを恐れた方が
いい。
われわれの祖先が、一つ一つくふうを重ねてくれたおかげで、われわれ
の今日の生活が生まれた。何気なしに見のがしている暮らしの断片にも、
尊いくふうの跡がある。茶わん一つ、ペン一本も、これをつくづくと
眺めてみれば、何というすばらしいくふうであろう。
まさに、無から有を生み出すほどの創造である。
おたがいにもう一度考え直そう。きのうと同じことをきょうは繰り返す
まい。どんな小さなことでもいい。どんなわずかなことでもいい。
きのうと同じことをきょうは繰り返すまい。
多くの人びとの、このわずかなくふうの累積が、大きな繁栄を生み
出すのである。
きのうからきょうへ きょうから明日へ
私たちは 日々 新たな世界に生きている
真の自由を求める いきいきとしたこころは
同じ毎日 同じ考えに 人間をとどめはしない
この一瞬の新たな発見 きょう一日の着実な成長が
そこに かならず刻まれていくのだ
水のように 流れてやまぬこころと
ふかく 地に沁みとおる力をもってすれば
明日の日本の繁栄と平和 明日の自分の幸福が
おのずから 秩序ある姿で実現されるにちがいない
この続きは、次回に。