「道をひらく」松下幸之助 ㊿+11
・乱を忘れず
景気がよくて、生活も豊かで、こんな姿がいつまでもつづけば、
まことに結構である。しかし、おたがい人生には、雨の日もあれば、
風の日もある。
景気にしても好況のときもあれば、不況のときもある。
いつも平和な、いつも豊かなときばかりとは限らない。
それが人生である。世の中である。
ところが、世の中が落ちついて、ある程度景気もよくなり、生活も
向上して、いわゆる安穏な生活がつづくようになると、いつしか、
この世の中実体を忘れ、人生のあり方を忘れて、日を送る。
それですむなら、それでもよかろう。しかしいつかは台風が来、
あるいは不景気の波が立つ。そのときになっても、はたしてきのうに
変わらぬ泰然の心境でいられるか、どうか。
いついかなる変事にあおうとも、つねにそれに対処してゆけるように、
かねて平時から備えておく心がまえがほしいもの。
「治にいて乱を忘れず」である。
それがわかっていながら、しかもおたがいに今ひとつ充分でない
のも、これも人間の一つの弱点であろうか。
● 安穏
● 泰然
落ち着いていて物事に驚かないさま。
「―として構える」「―たる態度」
● 変事
● 平時
● 治にいて乱を忘れず
平穏無事の世の中にいても、つねに乱世のことを考えて、準備を
しておかなければならぬという教訓。
この続きは、次回に。