続「道をひらく」松下幸之助 ㊿+18
● 自明の理
人間はほんとうは一人では生きられない。これは自明の理である。
そしてこの理に目がひらけば、われ人とともに生きる道を考える。
自分を大事にしようと思えば思うほど、他人をさらに大事にし、自分
を愛すると同じほどに、他人をも愛することにつとめるのである。
自分本位に走りがちなのは、人情の一面ではあるけれど、それでは結局
はゆきづまる。自明の理をふみはずしているからである。
国もまた同じ。今日のこの世界、国と国とのつながりは陰に陽にまこ
とに深い。だから、ほんとうは自分一国だけでは成り立たない。
これまた自明の理である。
この理に目がひらけば、われ他国とともに栄える道を考える。これが
ほんとうの愛国心というもので、自国を愛すれば愛するほど他国をも
大事に思う。
自国本位の愛国心で力を頼りに他を圧するのは、もはや時代おくれの
愛国心とも言うべきであろう。
おたがいに、自明の理に立った真の愛国心を、みずからも深く考え、
他にも強く訴えたい。世界はいま、それを必要としているのである。
■ 自明の理
それ自身で明らかな論理。 説明をする必要のない、明白な道理。
2018/10/06
■ 陰(いん)に陽(よう)に
あるときはひそかに、あるときは公然と。 また、あらゆる機会に。
● 国運
人には人の運命がある。さまざまの思いとさまざまの努力のなかで、
時に幸せに心浮き立ち、時にまた悲嘆の淵をさまよい歩く。そんな山坂
の交錯の日々を辿り来て、人ははじめてわが身の運命に思い到る。
国にもまた国の運命がある。人類の長い長い歴史のなかで、さまざま
の国が生まれ、またさまざまの国が消え去った。今もなお全世界百余の
国ぐにが、それぞれなりに興亡の道を辿りつつある。そこには希望も
あれば不安もある。安逸もあれば懸命な努力もある。さまざまの国家
とさまざまの国民。
そんななかでの日本。不安に立てば限りもなく不安でもあろう。しかし、
二千年余の国家としての日本の歴史に思い到るとき、危殆にひんした
ことのいくたびか。そして、そのいくたびかの危機をともかくものり
こえて、過去の国とならず今日もなお健在である。その国運のいかに
恵まれたことか。
この日本の国運に感謝しつつ、この恵みを正しく受けとめ生かしていく。
今日ほど日本人としてお互いにこの思いの大事な時はないのではなか
ろうか。
この続きは、次回に。