お問い合せ

Think clearly シンク・クリアリー ㉔

24. 本当の自分を知ろう—あなたの「自分像」が間違っている理由

 

□ 「第一次世界大戦」はセルビアから始まった?

 

あなたは「第一次世界大戦」についてどのぐらい知っているだろうか?

 一般に浸透している第一次世界大戦の流れは、おおよそこんな感じである。

一九一四年、セルビア人民族主義者の若者が、サラエボでオーストリア=ハンガリーの

帝位継承者を射殺し、それをきっかけにオーストリア=ハンガリーはセルビアに宣戦

布告する。

ヨーロッパでは当時ほぼすべての国がどこかの国と同盟関係にあったため、ほんの数週間

のうちに多くの国が参戦するも、すぐに戦線は膠着状態に陥る。各同盟間の軍事力が拮抗

していたのが原因だ。

 

(中略)

 

あなたが知っているのも、だいたいこんなところではないだろうか。

ただ、あなたが歴史学者ならすでにご存知だと思うが、事実はもちろんこの通りでは

ない。あの戦争には、もっといろいろな事情が絡んでいた。戦争の経過ももっと複雑

で、偶然に左右されるところも大きかった。

実際には、戦争が始まったのがセルビアだったのかさえ、実は、いまだにはっきり

していない。当時、暗殺事件は珍しくなかった(少なくともいまよりは多かった)。

 

(中略)

 

□ 「脳の記憶領域」には限りがある

 

私たちの脳は、よくコンピューターにたとえられる。だが、このたとえは的確ではない。

コンピューターは、生データを最小の情報単位であるビットで保存する。それに対して

脳は、生ではなく加工したデータを保存する。お気に入りの保存単位も「ビット」では

なく、「ストーリー」だ。

なぜ脳はわざわざそんな手間をかけるのだろう? なぜなら、私たちの頭の中にある脳の

記憶領域には、限りがあるからだ。

八○○億という脳細胞の数だけを聞くとずいぶん多いという印象を受けるが、私たちが

見るもの、読むもの、聞くもの、匂いや味わうもの、考えることや感じることをすべて

保存するにはまったく足りない。

そこで脳は、データを圧縮するコツを生み出した。それが、「ストーリー」をつくる

ことである。

 

(中略)

 

□ 出来事をつなげて「ストーリー」として記憶をつくる

 

脳は、ひとつひとつの出来事をどのようにより合わせて、記憶をつくり出すのだろうか?

そのポイントは、「ストーリー」だ。

脳は、ひとつひとつの出来事をつなげて、コンパクトで筋の通った、因果関係のはっき

りした「ストーリー」に仕立てあげる。AからBへ、BからCへと、原因から結果までの

展開が明確で、穴や矛盾がなく、短く簡略化された「ストーリー」。それを記憶として

保存するのだ。

私たちが意識しなくても、脳は自然にその作業を行なっている。戦争や、株式市場の

動向や、流行の変遷のような出来事に対してだけでなく、私たちの人生に関しても

「ストーリー」をつくり出す。

「ストーリー」をつくるのは、前章と前々章で取り上げた「思い出している私」の

メインの仕事だ。あなたがどんな人間で、これまで何をしてきて、これから何をする

のか、そしてあなたにとって大事なことは何か、こうしたことを「ストーリー」として

まとめあげる。

これが一般的に「自分」もしくはその人の「自分像」と呼ばれるものだ。

そこには、あなたの人生が簡潔にまとめられている。誰かにあなたのことを尋ねられて

もすぐに説明できるような、わかりやすい答えが用意されている。

人生の「ストーリー」に矛盾はない。つじつまが合わないことがらは都合よく忘れら

れ、思い出せない部分は(あなたが気づかないうちに)驚くべき独創力で穴埋めされる。

ものごとの因果関係も実ははっきりしている。人生で起こることにはすべてきちんとし

た理由があり、筋が通っている。短くきれいにまとまった「ストーリー」だ。

 

(中略)

 

□ 「日記」をつけて読み返すことの効用とは?

 

記憶の「ストーリー」にリアリティが欠けていると、大きな問題が起きる。

まず、変化するスピードは、自分で思っているよりずっと早い(第20章参照)。

私たちの好みだけでなく、一見変わらなさそうに思える私たちの個性や価値観すらも、

時がたてばどんどん変化してしまう。

 

(中略)

 

ふたつ目は、頭の中の「ストーリー」のせいで、人生が実際より「計画可能なもの」に

見えてしまうからだ。

私たちの人生は、私たちが思うよりずっと、偶然に左右されている。

 

(中略)

 

三つ目は、頭の中で「ストーリー」をつくりあげると、起きたことに対して何か特別な

意味づけをしたり、背後の事情や言い訳を考えたりして、個々の事実をありのままに

評価することが難しくなってしまうからだ。人間は、言い訳をすると、失敗から学べ

なくなってしまう。

そして四つ目は、私たちは「実際の自分」より優秀で、美しく、頭がよく、成功した

自分像をつくりあげがちだからだ。

自分を高く評価しすぎる「自己奉仕バイパス」が働くと、許容範囲を超える大きなリス

クをおかしてしまうばかりか、自分のことを重要人物のように勘違いしてしまう。

 

結論。私たちの中にある「自分像」は間違っている。

実際の私たちは、私たちが考えているより、多面的で、複雑で、矛盾の多い存在だ。

誰かがあなたを「間違って」評価しても驚いてはいけない。あなただったら、自分を

正しく評価できていない。

本当のあなたを知りたければ、人生のパートナーや長年の友人のように、あなたを

よく知っていて、あなたに気をつかわずに正直な意見を聞かせてくれる誰かに尋ねて

みるといい。それよりももっといいのは、「日記」をつけること。

何年も前の自分が書いたことをときどき読み返してみると、きっとそのないように驚く

に違いない。あなたの矛盾や欠点や闇の部分も含め、できるだけありのままの自分を

見つめるのも、よい人生にするための条件のひとつだ。

自分が誰かがわかっていれば、なりたい自分になれるチャンスも大きくなる。


 

この続きは、次回に。

 

2024年11月17日

株式会社シニアイノベーション

代表取締役 齊藤 弘美

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