お問い合せ

Think clearly シンク・クリアリー ㉚

30. 不要な心配ごとを避けよう—不安のスイッチをオフにする方法

 

□ どのくらい「臆病」であれば、動物は生きていけない

 

想像してほしい。あなたは「神」で、これから新しい種類の動物をつくろうとして

いるところだ。

 

(中略)

 

つまり、不安を感じる度合いは、ほどほどにしておいたほうがいい。「不安探知機」は

適度なレベルに設定しておかなければならない。

だが、いったいどのくらいが「適度」なのだろう? 先に挙げた命取りになりかねない

両極端な例のちょうど中間あたりだろうか?

 

どの動物もそうやって、進化する過程で、「臆病さの度合い」を強めてきた。

人間も例外ではない。私たちが朝から晩まで心配ごとを抱えているのは、そのためだ。

 

内心に抱える「不安」は、私たちの脳内ソフトウェアを構成する標準的な部品のひとつだ。

「不安」は、生物としてのプログラムにしっかり組み込まれているため、排除するのは

不可能に近い。

あなたも私も、ほかの誰かも、人間なら誰もが「不安」を抱えている。一○○万年もの

あいだ、私たちは常に「不安」を感じていたからこそ生き延びたのだ。したがって、

「不安」を感じること自体は、悪いことではない。

だが問題がひとつある。いまやあなたの臆病さは、命を脅かす危険とは直結していない

ということだ。あなたはもう、どの水の飲み場にもサーベルタイガーが待ち伏せている

サバンナに住んでいるわけではない。

あなたの頭の中に押し寄せる問題は、実際には危険でもなんでもない。あるいは、何か

につけて心配するのをやめられないから心配ごとを抱えているだけで、それらの90パー

セントは実は不要なのだ。真夜中に地球温暖化や、株式市場の動向や、天国に行けるか

どうかを心配してみてもなんにもならない。ただ眠れなくなるだけだ。

 

□ 「不安感」は生態系にも寿命にも影響を与える

 

恒常的な不安感は慢性的なストレスにつながり、私たちの寿命にまで影響を与える。

この事実を裏づける興味深い実験がある。

 

(中略)

 

だが、人間の場合には、もっと始末が悪い。私たちは敵に対して不安を覚えるだけでなく、

ありとあらゆることについてくよくよ思い込む。おまけにくよくよ思い悩むのは、本当の

問題から気をそらすための、人間お得意の逃げ道でもある。抽象的な問題に逃げ込んで、

現実の問題に向き合うのを避ける。悩んだほうがラクなのだ。

その結果として、慢性的な不安を抱えてしまうと、間違った決断をしやすくなるばかりか、

病気になってしまうこともある。客観的に見れば、不安を覚える必要性など何もないと

いうのに。

あなたの頭の中に、不安を煽るスピーカーをオフにできるスイッチがあればいいのだが、

残念ながらそんなものは存在しない。

ストア派と呼ばれる古代ギリシアやローマの哲学者たちは、心配ごとを取り除くのに

次のような方法を推奨していた。「あなたに影響を与えるものと与えないものを見きわ

めなさい。あなたに影響を与えるものにはきちんと取り組むべきだが、あなたに影響を

与えないものについては考える必要はない」。

アメリカ人の神学者ラインホルド・ニーバーは、その二○○○年後、同じことをこんな

言葉で表している。「神よ、変えられないものはそれをそのまま受け入れる平静さを、

変えられるものは変える勇気を、そして、変えられないものと変えられるものを見分け

る賢さを与えたまえ」

簡単に聞こえるが、これがなかなか難しい。人間の精神は、機械のスイッチを入れる

ように簡単に「平静」な状態に切り替わるものではないからだ。

また最近では、「瞑想」がさまざまな問題の打開策として褒めそやされている。

特に心の中の動揺やくすぶる不安に対して有効だといわれている。

たしかに、瞑想にはそうした感情を鎮める作用がある。

だが効果が続くのは瞑想中だけだ。瞑想の世界から現実に戻ると、元の感情や思考は

まだそこにある。前と変わらない強さでまたあなたの中に戻ってきてしまう。

哲学や瞑想もいいが、さらに役に立つのは具体的なアドバイスだろう。

 

□ 「不安」に対する三つの具体的な対処法

 

ここに、私の経験上おすすめできる「不安に対する三つの対処法」を挙げてみよう。

ひとつ目。「私の心配ごとメモ」というタイトルをつけたメモ帳を一冊用意しよう。

そして、あなたが自分の心配ごとのために使う時間を決めておく。

たとえば、「一日一○分」と時間を決めて、その間に気にかかっていることすべてを

そこに書き出すのだ。心配して当然の深刻な問題も、ちょっとしたことも、漠然とした

不安も、気になることはとにかくすべて書き留める。

 

(中略)

 

週末になったらその週に書いたことをすべてに目を通し、哲学者のバートランド・ラッ

セルの助言通りのことをするといい。「ある心配ごとが頭から離れなくなっていること

に気づいたら、それについてわざと必要以上に考えこむのが一番いい。

そうすれば、病的な心配ごとは頭の中から自然に消滅してしまう」。

つまり、考えられる限り最悪の結果を想像し、それについて集中して考えるようにすれ

ばいいのだ。そうしているうちに、たいていの心配ごとは消えてなくなっていく。

それでも消えないものだけが、本当に危険で対応が必要な問題ということだ。

ふたつ目。「保険」をかけよう。保険はすばらしい発明だ。心配ごとをなくすための

もっともスマートな方法のひとつと言っていい。保険の真価は、損害が発生した時の

金銭的な保証にあるのではない。保険の有効期間は心配ごとを減らせるという点にある。

そして三つ目は、「仕事」に精神を集中させよう。仕事は、心配ごとから気をそらす

最良のセラピーになる。仕事への精神集中や仕事で得られる満足感は、瞑想よりずっと

不安の抑制に効果的だ。仕事ほど気をそらせられるものはなかなか見当たらない。

 

これらの三つの対処法をとれば、あなたの人生が悩み知らずになる可能性は、確実に

高くなる。つまり、よい人生を手にするチャンスが大きくなるのだ。

ひょっとしたらすでに若いうちから、あるいは少なくとも人生の中盤ぐらいには、作家

のマーク・トウェインが、ようやく晩年に到達したという境地を思ってほくそ笑むこと

ができるかもしれない。「私はもう老人だ。これまでの人生ではいろいろな心配ごとを

抱えていたが、そのほとんどは現実にはまったく起こらなかった」。


 

この続きは、次回に。

 

2024年11月30日

株式会社シニアイノベーション

代表取締役 齊藤 弘美

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