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Think clearly シンク・クリアリー ㉜-2

□ 考え方の選択は、人間に残された最後の自由

 

ナチスの強制収容所の生存者であるヴィクトール・フランクルは、こんなことを書いて

いる。「考え方の選択は、人間に残された最後の自由だ」。これは、前述した四つ目の

アドバイスの「精神的な砦」と趣旨はまったく同じといえる。

たとえば、イタリアの科学者で作家のプリーモ・レーヴィの作品を読むと、アウシュ

ヴィッツでの体験をつづる彼の描写とストア派の思想の共通点に驚かせる。

そして第28章で取り上げた戦闘機のパイロット、ストックデールも、やはりストア

主義的な思想の持ち主だ。四年間の独房生活を含む七年間の捕虜生活のあいだ、彼は

自分の主義をつらぬき通した。しかし、たいていストア派の思想は、いまの私たちには

あまりなじみがない。

ストア派がすすめる「運命の存在を受け入れる」思想を持たない私たちが「運命」と

いう言葉を口にするとき、それが意味するところは、「フォルトゥナの輪」ではなく、

「システムの機能不全」だ。私たちは、失業も、飢えも、戦争も、病気も、死さえも、

例外的にシステムがうまく機能しなかったせいで起こると考えている。

だが、そう考えるのは間違いだ。以前と比較して、大きな不幸に見舞われる頻度は

(少なくとも先進国では)減ったかもしれないが、その分精神的に受ける打撃は大きく

なった。

そのうえ、グローバル化が進んで世界が複雑になっている現在では、まったく新しい

予想外の不幸に見舞われる可能性も十分にある。

つまり、思考の道具を手に入れて精神的な打撃に備える重要性が、これまで以上に

高まっているということだ。

あなたがボエティウスや、第三帝国のユダヤ人や、内戦下のシリアの住民でなくても、

「運命」の打撃に襲われることはある。インターネットで炎上して自分を根底から否定

されたり、世界的な金融危機が起きて貯蓄をすべて失ったり、あなたのパートナーが

フェィスブックの「友だち」に恋をしてあなたを家から追い出したり。

しかし、どれも不幸なことには違いないが、命にかかわるほどではない。

それに、もっとも大きな運命の波を、あなたはすでに乗り越えている。あなたが、

この世に生まれるまでの確率の低さを考えてみるといい。あなたの母親やあなたの

両方の祖母や曾祖母たちがつらい出産(出血多量で亡くなった人もいたはずだ)をくぐり

抜けた結果、あなたはこの世に生を受けることができたのだ。それなのにあなたは、

あなたの株式ポートフォリオの価値が半減した程度のことで嘆くというのだろうか?

 

結論。世界は厄介ごとや偶然に満ちていて、ときに私たちの人生を混乱させる。

幸せかどうかは、高級車や、社会的地位や成功を手にすることや、銀行口座の額で

決まるのではない。ボエティゥスが経験したように、それらはどれも、「一度は手に

したと思っても次の瞬間には取り上げられてしまうかもしれないもの」ばかりだ。

幸せはあなたの「精神的な砦」の内側にある。ポルシェのコレクションに精を出して

物質的な充実を図るより、砦の内側を充実させよう。

 


 

この続きは、次回に。

 

2024年12月7日

株式会社シニアイノベーション

代表取締役 齊藤 弘美

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