Think clearly シンク・クリアリー ㉞-2
□ 未然に経営破綻を防いでいるマネージャーはすごい
ターンアラウンド・マネージャー(経営破綻しかけた企業の事業再生・企業再建を請け
負うスペシャリスト)の活躍ほど、経済メディアにもてはやされるものはない。
その再生手腕を評価すること自体は何も悪いことではないのだが、もっと高く評価され
るべきなのは、企業再生が必要な状況に陥ることを防いでいるマネージャーのほうだろう。
けれども「予防措置」による成功は、外からは認識できないため、その業績はメディア
の目にはとまらない。そのマネージャーがどれだけ賢明な判断をしたかを知っているのは、
マネージャー本人と、彼の配下のチームメンバーだけだ。しかし彼らが知っているのも、
実際には、大きな成功のうちのほんの一部でしかない。
そんなふうに、私たちは「目につきやすい」業績をあげた軍の高官や、政治家や、救急
外科医や、セラピストの役割を過小評価している。
だが真のヒーローや賢人は、実は腕のいいホームドクターや、優れた教師や、合理的な
立法者や、百戦錬磨の外交官といった、「問題を事前に防いでいる人たち」のほう
なのだ。
では、あなた自身の人生についてはどうだろう?
すぐには信じがたいかもしれないが、あなたが人生で達成した成功のうちの、少なく
とも半分は、「予防措置」による成功だ。
もちろん、誰でもそうであるように、これまでの人生であなたは失敗だってしている
だろう。それでも、失敗した回数よりも愚かな行為をつつしんだ回数のほうが、ずっと
多いはずである。健康面や、キャリアや、金銭面やパートナー選びにおいて、あなたが
賢明にも事前に避けて通った危険を思い返してみるといい。
「予防のための措置」をほどこすことを、怠ってはいけない。
アメリカ人のヘッジファンドマネージャー、ハワード・マークスは、彼の著書『投資で
一番大切な二◯の教え』の中で、ある賭博師のことを書いている。
「ある日その賭博師は、出走馬が一頭司会ないという競馬のことを耳にした。
そして彼は全財産をその馬につぎ込んだ。これ以上確実な賭けなどありえない!と考え
たからだ。だがその馬はレーストラックを半分ほど走ったかと思うと、柵を飛び越えて
逃げ出してしまった」
□ 一週間に十五分、起こりうる「リスク」について考える
アメリカ人の国際政治学者、ヘンリー・キッシンジャーは、こうした失敗は「想像力の
欠如」によるものだと指摘している。「予防措置」をとるのに必要なのは、知識だけ
ではない。想像力も必要なのだ。
だが、残念ながら多くの人は「想像」に対しては間違ったイメージを抱いている。
ワインを飲みながら考えごとをしたときに、頭に浮かんでくるのが「想像」だと思って
いる人が多いのだ。けれどもそれは「想像」ではなく、以前に考えたことがまた頭に
浮かんできているだけである。
「想像」というのは、物事のあらゆる可能性とそこから予測できる結果を、持てる力の
最後の一滴まで振り絞って、結末まで含めて綿密に推測することだ。
そう、「想像」するのは、なかなか骨が折れるのだ。
ひょっとしたらあなたはいま、まだ起こっていない問題についてまで「想像」を巡らさ
なくてはならない大変さを思って、気が重くなっているかもしれない。
だが本当に、まだ起きてもいない大問題について常に考えておく必要があるのだろうか?
そんなことをしていたら、気が滅入ってしようがないのではないだろうか?
経験から言わせてもらえば、そんなことはない。きっと気は滅入らない。
チャーリー・マンガーもこう言っている。「これまでの人生を通して私はずっと、考え
られる限りのあらゆる困難について想像してきた。(中略) だが、問題を先取りするのを
憂うつに感じたことはない。その問題が現実になったときに備えておけるわけだからね」。
一週間のうち、一五分でいい。あなたの人生で起こりうる「大きなリスク」について、
集中して考える時間を持とう。
(中略)
もちろん、これらの作業を定期的にきちんと行ったとしても、あなたが危険を見逃して、
間違った判断を下すことはあるだろう。だか、そうやって結果的に大きな問題が起きた
としても、あなたが現実を直視し、すぐにその問題に対処すれば被害は小さくできる。
けれども事前に予測できるようなことに関しては、困難は解決するより避けたほうが
簡単なのは間違いない。
結論。賢明さとは、「予防的措置」をほどこすことだ。予防のための措置からは目に
つかないため、残念ながらあなたは賢明さをひけらかすことはできない。
だが、自慢がよい人生のためにはならないことを、あなたもすでにご存じのはずである。
この続きは、次回に。
2024年12月16日
株式会社シニアイノベーション
代表取締役 齊藤 弘美