Think clearly シンク・クリアリー ㊳-2
□ 「反論の余地のないもの」には注意する
あらゆる事象に対する説明が用意されていて、反論の余地がないイデオロギーの典型的
な例が「マルクス主義」だ。
(中略)
一見、反論の余地がないことはメリットに思える。誰にも論破できない強力な論理を
手にするのは気分がいいものである。
だが実際には、「反論の余地のない論理」というものは、鉄壁な論理からはほど遠く、
弱点を突くのは実にたやすい。もしあなたが、何かの教義に心酔している人に出会った
ら、「あなたの世界観を手放さざるをえないのは、どんな出来事に遭遇した時です
か?」と尋ねてみよう。その質問に対して答えが返ってこなければ、その人が何かを
盲信している証である。その人物からは大きく距離を置いたほうがいい。
そして、自分が何かの教義に取り込まれそうになっているのではないかと不安になったら、
自分自身に対してこの問いかけをしてみよう。
できるだけ批判の余地を与えないように、イデオロギーとはたいてい不明瞭なもので
ある。
この不明瞭さが、イデオロギーを遠くからでも識別できる危険信号の三つ目だ。
たとえば、神学者のハンス・キュンクは(いつもははっきりと自分の考えを表明する
人物なのだが)、「神」をこんなふうに定義している。「(神とは)この世のものでも
あの世のものでもあり、絶対的で相対的な、超越的で内在的な、すべてを包み込んで
すべてを支配する、真の中の真の存在である。物事の中心にも、人類や人類の歴史の
中心にも、世界の中心にも神は存在している」。
ここまで説明されていると反論の余地はないが、あまりにも抽象的な言いまわしである。
こうした言葉が使われている場合には、イデオロギーだと思って間違いない。
使われている言葉に注意し、自分が使う言葉にも注意するようにしよう。
□ 自分の頭で考え、自分の言葉で話そう
自分の意見を述べるときは、注意しよう。考えなしに自分の周りの人々の物言いや
表現を取り入れるのではなく、自分自身の言葉を見つけたほうがいい。
たとえば、あなたの仲間たちが社会のほんの一部の人々を指して「国民」という言葉を
使っていても、それをそのまままねるのはおすすめできない。
また、仲間たちが何かしらの「スローガン」を持っていたとしても、それをそのまま
あなたが使うのは避けたほうがいいだろう。
あなたが「公の場」で発言するときには特に気をつけよう。公に何かの教義を支持する
ような発言をすると、後戻りするのは難しくなる。その教義はあなた自身の脳に深く
確実にたたき込まれるようなものだからだ。
また、あなたの意見に対する「反論」を意識的に探して、あなた自身の論理の確実性を
確かめるようにしよう。
あなたの意見が尊重されるのは、あなたが自分の立場を雄弁に論証できたときだけだ。
第31章で述べたとおり、あなたがテレビのトークショーのゲストとして招かれ、一緒に
招かれた他の五人のゲストが全員、あなたと反対の立場をとったときのことを想像して
みるとわかりやすいだろう。
結論。自分の頭で考えよう。身近にある社会集団の考えに対する忠実すぎる信奉者に
なるのはやめよう。一般的に「教義」と呼ばれるものからは、距離を置くようにしよう。
自分は世界を理解できていないと早く気づくほど、世界をさらによく理解できるように
なるのだから。
2025年1月11日
株式会社シニアイノベーション
代表取締役 齊藤 弘美