Think clearly シンク・クリアー ㊸-1
43. 形だけを模倣するのはやめよう—カーゴ・カルトの犠牲にならない
□ 戦争が終わった後、島民たちが行った儀式とは?
○ カーゴ・カルト
カーゴとは積み荷を意味し、積み荷崇拝あるいは船荷崇拝とも訳される。
ヨーロッパの荷物を満載した船(ときには飛行機)が現地住民の祖先とともに到来し、
そのとき、いままでの白人優越の社会でない理想郷が実現するという信仰がこれらの
運動の一般的特徴である。
第二次世界大戦中、太平洋の小さな島々は、米軍と日本軍の激しい戦闘の舞台となった。
それまで兵士というものを見たことがなく、ましてやジープや無線機などまったく目に
したことのなかった島民たちは、藁ぶき小屋の前で轟音をとどろかせながら展開される
大活劇を驚愕の目で見ていた。
奇妙な制服を着た人間たちが、骨のようなものを自分たちの顔に近づけ、それに向かって
話しかける。すると、巨大な鳥が何羽も現れ、そらでくるくる回りながら、膨らんだ布に
括り付けられた包みをいくつも投げ落とした。それらはふわふわと漂いなが、ゆっくり
地面に下りてきた。包の中身は「缶詰」だった。
食べ物が空から降ってくるなんて。まるで楽園のようだった。兵士たちは、缶詰を島民
たちにも分けてくれた。
(中略)
戦争が終わって軍が引き上げていき、島にいるのが島民たちだけになると、一風変わった
後継が見られるようになった。多くの島々で新しい儀式が催されるようになったのだ。
「カーゴ・カルト(積荷信仰)」と呼ばれる儀式である。
(中略)
○ 驚愕
非常に驚くこと。驚駭 (きょうがい) 。
□ 「カーゴ・カルト」の罠に陥ってしまう人たち
ノーベル物理学賞を受賞するリチャード・ファインマンは、ある講演で「カーゴ・カル
ト」を引き合いに出してこんな話をしたことがある。「サモア諸島の島民たちは、飛行
機が何かを理解できていませんでした。(中略) 彼らは何もかも実に忠実に模倣し、形の
うえでは申し分ありません。すべて当時と同じように再現されています。でも、形だけ
整っていてもどうなるものではありません。飛行機は一機もやってこないのです」。
ファインマンは、本当の意味を理解しないで形式にばかりしがみつく、学会にはびこる
形式主義の悪習を公然と非難したのだ。
「カーゴ・カルト」の罠に陥ってしまうのは、島の住民や研究者たちだけではない。
(中略)
そのヘミングウェイにあこがれた友人は、何をしたとお思いだろうか?
彼は口ひげをたくわえ、襟元を大きく開けて洗いざらしのシャツを着て、新しいカクテ
ルを考案するための実験に熱心に取り組んだ。ヘミングウェイも使っていたと言われる
モレスキンノートも買い置きしていた(実際にはヘミングウェイはそれを使っていなかっ
たらしいのだが)。
だが痛ましいことに、形を模倣した彼の努力は、彼の小説家としての成功に(あるいは
不成功に)少しも影響しなかった。
その友人はカーゴ・カルトの犠牲になってしまったというわけである。
この続きは、次回に。
2025年1月27日
株式会社シニアイノベーション
代表取締役 齊藤 弘美