Think clearly シンク・クリアー ㊸-2
□ パーカーを着ているザッカーバーグにはなれない
こうした話を聞くと、あなたは思わず笑ってしまうかもしれないが、「カーゴ・カル
ト」は驚くほど社会に蔓延している。
経済界もしかりだ。滑り台やマッサージルームや無料の社員食堂など、優秀な社員を
惹きつけようと「グーグル」の洗練されたオフィスを真似ている企業のどれほど多い
ことか。
第二のマーク・ザッカーバーグになるという野心を抱いて、パーカーを着て投資家との
ミーティングに出席する企業家のどれほど多いことか。
また、カーゴ・カルトの儀式がひときわ目立つのが、公認会計士の仕事である。
監査役会議の議事録にはもれなく署名があるか? 経費の証拠資料はきちんと保存されて
いるか? 売り上げは正しい時期に計上されているか? 公認会計士たちは毎年、チェック
リストの項目にのっとって業務を処理する。重要なのは、「形式」がきちんと整ってい
るかどうかだ。エンロンや、リーマン・ブラザースや、AIG損害保険や、UBS銀行の
ように、企業が破綻したり経営危機に陥ったりしたときにもっとも驚くのは、その企業
の公認会計士たちだ。
どうやら彼らは、「形式」がきちんとしていない部分を見つけることには長けている
ようだが、経営上の真のリスクを見つけるのは不得意なようだ。
□ 中身のともなわない「形式主義」を見抜こう
音楽の世界にも、カーゴ・カルトの典型的な礼がある。
ヴェルサイユで策をめぐらせ、はじめは太陽王付きの器楽作曲家に、のちに音楽監督の
座についた、作曲家のジャン・バティスト・リュリ。彼は、宮廷音楽の作曲法を、細部
に至るまで細かく定めた。
(中略)
そうしたリュリは、「史上もっとも嫌われた作曲家」(作曲家ロバート・グリーンバー
グの言)の地位に登りつめながらも、ヨーロッパ全土の宮廷は一様にリュリがつくり
あげた形式の作曲法に従うようになった。スイスの、人里離れたプレアルプスにある
ちっぽけな城館においてさえ、パリの形式が模倣された。
少しでもヴェルサイユにいる気分を味わおうとする、城主のカーゴ・カルトである。
ちなみにリュリは、その権力がピークにあった一六八七年の一月八日、コンサートの
指揮者として、重い杖を床に打ち付けながらリズムをとっている最中(当時はこうした
指揮の方法が一般的だった)、誤ってその杖で足の指を打ち砕いてしまった。そこから
入り込んだ菌がもとでリュリの足は壊疽を起こし、その三か月後、帰らぬ人となった。
結論。形だけを追い求めるのはやめよう。どんなカーゴ・カルトにもかかわらないほう
がいい。中身のともなわない「形式主義」は、私たちが考えるよりずっと社会に蔓延し
ている。
よい人生にしたければ、形式主義をきちんと見抜き、あなたの人生から締め出したほう
がいい。形式にこだわれば、時間を無駄にするだけでなく、あなたのものの見方まで
狭くなる。
そして、カーゴ・カルトに陥っている人や組織とは距離を置こう。仕事の成果によって
ではなく、わざとらしい態度やくだらないおしゃべりで昇進が決まるような企業もまた
遠ざけよう。
成功している人の行動をただ模倣するのもやめたほうがいい。その人が成功できた理由
をきちんと理解せず、形だけをまねてもなんの意味もない。
この続きは、次回に。
2025年1月29日
株式会社シニアイノベーション
代表取締役 齊藤 弘美