Think clearly シンク・クリアー ㊹-2
□ 「他人のレース」で勝とうとしなくていい
「多才さ」をよしとするのは、そろそろやめたほうがいい。
もう一万年も前から、職業上の成功を手にするにも社会の豊かさを実現するにも、
「専門性」は欠かせなくなっているのだ。
そして一万年間に、誰も予測していなかった変化がふたつあった。
ひとつ目は「グローバリゼーション」で、以前は地理的に隔離されていた市場がひとつ
になった。
それまでまったく競合する機会がなく、それぞれに多額の収入を得ていたあるまちの
テノール歌手と隣町のテノール歌手が、レコードの普及によって突然同じグローバル
市場で競い合うことになったのだ。
たったひとつの市場に、一度に一万人ものテノール歌手は必要ない。三人もいれば十分だ。
市場に「独り勝ち」現象が起こり、収入には極端な格差が生じるようになった。
少数の勝者が市場の利益のほぼすべてを手中にし、残りの大多数は、市場の隅でなんとか
生きていける程度の収入しか得られなくなってしまった。
一方で、「職業の専門化」がどんどん進み、専門分野の数は爆発的に増加した。
以前は地域ごとに同一の専門分野が存在していたのに、いまでは地域の壁が取り払われ
たひとつの世界に、たくさんの専門分野が存在している。
各分野内での競争は熾烈だが、専門分野の数は無数にある。「勝者の数は無限だ」と
テクノロジーの専門家、ケビン・ケリーはいう。「他人のレース(専門分野)で勝とうと
するのではなく、自分のレースを見つけだせばいいだけだ」。
では、自分のレースを見つけてその勝者になるには、具体的にどうすればいいのだろう?
そのために必要ないくつかのポイントを挙げておこう。
ひとつ目。ほかの誰かに追い越されて初めて、自分が十分な専門性を身につけていない
ことに気づくケースは以外に多い。
たとえば病院で働く放射線医の場合、核放射線医、画像下治療医、神経放射線医といった
特定の専門分野を持つ放射線医以外は、いまやほとんど需要がない。だから、自分に
できることをただ漫然とするのではなく、自分のできることの中で何に焦点を絞るかを
考えるようにしよう。
ただしこれは、「自分の専門外のことには目をくれなくていい」という意味ではない。
類似点のある分野の良い部分は大いに取り入れるべきである。ただし、その際にもあな
たの「専門分野」とあなたの「能力の輪」(第16章参照)は、常に意識するようにしよう。
ふたつ目。自分の専門分野の世界的な第一人者になれば、「独り勝ち」現象は自然に
あなたのものになる。
あなたがまだ第一人者になれていない場合は、あなたの専門分野をさらに深く追求する
必要がある。あなた独自のレースを世間に知らしめ、そのレースの勝者になろう。
そして最後。仕事のチャンスを広げようと、できるだけたくさんの知識を詰め込もうと
するのはもうやめよう。そんなことをしても意味がない。
一般的な教養は、いまや趣味としてしか役に立たない。仕事に活かすためではなく、
本当に興味があるなら石器時代の人たちに関する本を読んでいいが、あなたが生きて
いるのは石器時代ではないことをくれぐれも忘れないように。
この続きは、次回に。
2025年2月2日
株式会社シニアイノベーション
代表取締役 齊藤 弘美