お問い合せ

Think clearly シンク・クリアー ㊺-1

45. 軍拡競争に気をつけよう—競争が激しいところにわざわざ飛び込まない

 

□ 進化しつづけなければ、生き残ることはできない

 

一○年、二○年前の「コピーショップ」がどんなふうだったか、覚えているだろうか?

コビー機が数台並んでいるだけの簡素な店だった。中には硬貨の投入口のある、自分で

使えるコビー機もあった。

それに比べると、現在のコピーショップはまるで別物だ。実際に小さな印刷所のような

もの。カラーコピーもできるし、コピー用紙は一○○種類も用意されている。ハイテク

機器と接続されていて、希望すればハードカバーの表紙をつけることだってできる。

この変わりようを見た人は当然こう考えるだろう。この魔法のようなテクノロジーの

おかげで、コピーショップの経営者の利益はとんでもなくアップしたに違いない、と。

ところが、残念ながらそうはなっていない。もともとわずかしかなかった利益が、さら

に少なくなったのだ。

では、高価な機械の対価として得られるはずだった利益は、いったいどこにいってしま

ったのだろう?

 

若い人たちの多くは、輝かしいキャリアを築くためには、「大学」をでなければならな

いと考える。大卒者の初任給は、大学に行かなかった人たちよりたいてい高いからだ。

だが総体的に見て、社会に出るまでにかかった時間とそれまでの教育費を差し引くと、 

大半の大卒者の所得額は、彼らより早くから社会に出た人たちとほぼ同じか、もっと

低いという結果が出る。

大学卒業までにかかった時間と多額の費用によってもたらされるはずだった対価は、 

いったいどこにいってしまったのだろう?

 

ルイス・キャロルは、世界的なベストセラーとなった『不思議の国のアリス』に続いて、

一八七一年に続編の『鏡の国のアリス』を発表した。その中で、あかの女王は小さな

アリスにこんなことを言っている。「この国では、同じ場所にとどまりたければ全力

で走りつづけなければなりません」。

コピーショップについてや、学歴と所得額のメカニズムを、実に的確に言い表す言葉で

ある。

現状を維持するためには、周囲の変化に合わせて進化しつづけなければ、生き残ること

はできない。

国家間の軍拡競争と同じである。「軍拡競争」とは本来、軍事面での競い合いを指す

言葉だが、軍備を拡張する他国より優位に立つために、自国の軍備も増強せざるをえな

いというメカニズムだ。それと同じパターンは、あちらこちらで見受けられる。

大局的に見れば、実はまったくの不毛な争いでしかないのだが。

 

□ 会社を興したのは「競合他社ゼロ」だったから

 

ではここでもう一度、先の質問に戻ろう。投資した時間やお金に対してえられるはずだ

った「対価」は、どこにいってしまったのだろうか?

コピーショップの場合は、新しい機械でサービスを受けられる顧客の利益になっている

のは言うまでもない。だが、それ以外のおもな利益を享受しているのは、「コピー機の

メーカー」と「大学」である。

「ほぼ誰もが大学を出ているようなじょうきょうでは、大卒という学歴はいまや目立た

ない。理想の仕事に就くには、有名大学を出る必要がある。そうなると、教育も軍拡競争

となんら変わりはない。軍拡競争でおもな利益を手にするのは武器製造業者だが、教育

の場合、それに当たるのは大学だ」と『ニューヨーカー』誌のライター、ジョン・キャ

シディは書いている。

けれどもライバルとの競争のさなかにいると、そのことに気づくことはめったにない。

厄介なことに、どんな措置もどんな投資も、当人にとっては「有意義」に思えてしまう。

だが、すべての要素を考慮に入れて全体のバランスシートを見ると、結果的に得られる

利益はゼロ、もしくはマイナスだ。

だから、自分の置かれている状況は、きちんと見きわめるべきなのだ。もしあなたが、

意に反して軍拡競争に巻き込まれていることに気づいたら、自分から身を引こう。

軍拡競争のさなかにいては、よい人生は絶対に手に入らない。

 

では、軍拡競争に巻き込まれないためにはどうすればいいのだろう? 答えは、軍拡競争

のない活動領域を見つけることだ。

たとえば私が、書籍要約サービスを提供する「get Abstract」社を友人とともに設立し

た理由のひとつも、その領域には軍拡競争がなかったからだ。競合他社はゼロ。

この事業を始めてから一○年以上ものあいだ、同様のサービスを提供する会社は現れず、

私たちにとっては夢のような状況だった。

前章では「専門を持つことの重要性」について取り上げたが、実は、専門を持つだけで

は十分ではない。専門性の高い特定の分野にも、軍拡競争が潜んでいることが多いからだ。

あなたがその第一人者であり、なおかつ軍拡競争とも無縁でいられる分野を見つける

必要がある。


 

この続きは、次回に。

 

2025年2月4日

株式会社シニアイノベーション

代表取締役 齊藤 弘美

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