お問い合せ

Think clearly シンク・クリアー ㊻-1

46. 組織に属さない人たちと交流を持とう—組織外の友人がもたらしてくれるもの

 

□ 若きスピノザに布告された「破門状」とは ?

 

「法の定めるあらゆる悪しき行為をおかした罪により、我々はバールーフ・スビノザを

我々の共同体から追放し、除名し、呪い、破門することをここに宣言する。

かの者は昼に呪われ、夜に呪われ、体を横たえるときも、起きるときも、家に帰るとき

も、外出するときも呪われるべし。神はかの者をけっしてお許しにはならないであろう。

何人たりとも、かの者と言葉をマジわしてはならない。文をマジわすこともならない。

かの者に助力を与えることも、ひとつ屋根の下にとどまることも、四エレ(約二キロメ

ートル)以内に近づくことも、かの者によって書かれたいかなるものを読むことも禁ずる」。

[註:エレは昔の長さの単位で、一エレ五○一・八メートル]

一六五六年に布告されたこの「破門状」によって(実際の破門状はこの四倍は長く、

この六倍は手厳しい)、当時二三歳の繊細な若者だったスピノザは、ユダヤ人共同体

から追放された。スピノザは公的に「好ましくない人物」と断じられ、共同体の一員

としての立場を剥奪されたのだ。

スピノザは当時、まだ著作をひとつも発表していなかったが、それでも、若い思想家の

自由な見解は共同体の指導者たちをひどく怒らせてしまったのである。

スピノザは、今では史上もっとも偉大な哲学者のひとりに数えられている。

 

この破門状を目にした私たちは、その仰々しさに思わず驚き、笑いたくもなるが、当の

哀れなスピノザにとっては笑いごとではなかっただろう。

夕方のニュースや、新聞や、ポスターや、ありとあらゆるソーシャルメディアをつかっ

て役所があなたの破門を宣言し、あなたに近づく者がいないか、あなたと話す者がいな

いか、あなたと話すものがいないかと、いたるところで情報部員が目を光らせている

状況を思い浮かべてみてほしい。スピノザは当時、そういうつらさを味わっていたのだ。

あなたが何らかの組織やビジネスクラブのメンバーだったら、そのメンバーであること

のメリットがよくわかるだろう。

いつでも自由に利用できるメンバー向けのスペースには、居眠りしたくなるほど座り

心地のいい肘掛け椅子があり、小さなテーブルの上には最新の雑誌が用意され、そこに

行けばいつでも同じ興味を持つ相手と雑談ができる。施設内の環境は、すべてあなたの

ニーズに合わせられている。

 

□ 「どこにも属さない部外者」が変革を起こす

 

企業の社員だったり、学校の生徒だったり、大学の教授だったり、地域社会の一員だっ

たり、何かの協会のメンバーだったりと、ほとんどの人はひとつ、またはいくつかの

「組織」に属している。これらの社会的なまとまりは、私たちのニーズに沿うようつく

られているため、その中では快適に活動し、心地よく過ごすことができる。

それにもかかわらず、いつの時代にも、「どんな組織にも属さない人」がいる。

自ら進んでどこにも属さない人もいれば、最初から中に入れなかった人も、スピノザの

ように追い出されてしまった人もいる。

ほとんどは「変わり者」だが、全員がそうだというわけではない。そういう人たちの中

から、たったひとりで世界を一歩前進させてしまうような人物が定期的に現れる。

学術研究に関しても、経済界でも、文化においても、「どこにも属さない部外者」が

起こした変革は驚くほど多い。

 

大学で職をえられなかったアインシュタインは、ベルンの特許庁で給料の安い三級技術

専門職として勤務していた期間の余暇を使って、物理に革命をもたらした。

その二○○年前には、まだ青年だったニュートンが万有引力の法則を発見し、数学の

一分野まで確立している。彼の所属するクラブ(ケンブリッジ大学のトリニティ・カレ

ッジ)はペストの流行により閉鎖中で、ニュートンは二年間、田舎暮らしをしている最中

だった。

チャールズ・ダーウィンは研究者としてはどこにも属さず、研究期間の研究員名簿に

名前が載ったことも教授職についたことも一度もなかった。

歴代のイギリス首相のなかでも特に大きな功績をあげたマーガレット・サッチャーは、

以前は普通の主婦だった。無名の一個人にすぎなかったが、政治の世界で頭角を現し、

首相にまでのぼりつめたのだ。

ジャズは個々の独立したミュージシャン同士が集まってつくりだす音楽のジャンルだ。

ラップもそうだ。

クライスト、ニーチェ、ワイルド、トルストイ、ソルジェニーツィン、ゴーギャンなど、

偉大な作家、思想家、芸術家にも、非協調主義者は多い。

それから、宗教の開祖たちも忘れてはならない。現存の宗教を始めた人たちは、例外な

くどこにも属さない者ばかりだった。もちろん、「偉人」たちを過大評価してはならな

い(第50章参照)。彼らでなくても、ほかの誰かが同じようなすぐれた魚石を成し遂げて

いたはずだ。

ただし、ここで重要なのは、組織に属さない人たちは、その内部にいる人たちよりも

迅速に行動できるため、早く結果を出せることが多いということだ。


 

この続きは、次回に。

 

2025年2月8日

株式会社シニアイノベーション

代表取締役 齊藤 弘美

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