Think clearly シンク・クリアー ㊻-2
□ 組織に属さないことの「メリット」とは?
どこにも属していない人には、手続き上のメリットもある。組織の決めごとに従う必要
がないため、余計な時間を節約できる。
たいていの組織につきものの「合理的ではない手順」を省略できる。言ってしまえば、
グラフィック機能で見た目を美しく飾るだけで、実は無意味なパワーポイントのスライ
ドづくりのために知性を無駄づかいしなくていいし、神経をすり減らすような会議での
駆け引きも避けられる。形式主義的なあらゆる儀式を悠々と飛び越えられるのだ。
顔見せのためだけに招待に応じたり、イベントに出席したりする必要もない。そもそも、
部外者は最初から招待を受けることもないだろう。それに、どの組織にも属していない
ため、そこから追い出されないよう言動に気をつける必要もない。
「どこにも属さないこと」のメリットはもっとある。外にいると、組織のメンバーには
見えなくなってしまったシステムの欠点や矛盾がよくわかる。部外者のほうが深い洞察
ができるため、うわべだけでなく根本的な現状批判をすることもできる。
このように「どこにも属さない人生」を想像すると、あこがれの気持ちやロマンチック
な空想をかきたてられるかもしれない。もう組織なんて飛び出してしまいたい、と。
だが、それでも、どの組織のメンバーでもない「完全なる部外者」にはならないほうが
いい。属する組織を持たないと、社会があなたを拒絶しようとするからだ。
無情な逆風が吹き、ほとんどの人は、自分の前に立ちはだかる世界を前に打ちひしがれる。
彗星のように明るく輝けるのは、ほんの少数の人たちだ。どこにも属さない生き方は、
映画のプロットとしては面白いが、よい人生には適さない。
□ 「片方の足」は社会の組織の中に固定しておく
では、どうするのが一番いいのだろう?
少なくてもあなたの「片方の足」は、社会の組織の中にしっかりと固定しておくように
する。そうすれば、組織のメンバーとしての利点を確保しておける。そして、「もう片方
の足」で放浪の旅に出ればいい。
そう聞くと、そんなこととても無理としか思えないかもしれないが、方法はある。
「どの組織にも属していない人たち」と交友関係を結べばいいのだ。言うは易く行うは
難しだが、次のようなルールを守って、「彼ら」とよい関係を築くようにしよう。
(a) 社交辞令ではなく、心の底から彼らの仕事に関心を持つ。(b)社会的地位をちらつか
せるのはやめよう。あなたが博士号を持っていようが、ロータリークラブの会長だろう
が、彼らにとってはどうでもいいことだ。 (c)寛容になろう。組織に属さない人たちは
時間にルーズなことが多い。洗っていないシャツや派手すぎるシャツを着て現れること
もある。(d)ギブアンドテイクを忘れないように。アイデアや資金や人脈など、あなた
からも彼らに何かお返しをしよう。
彼らとよい関係を保つためのルールが身についたら、あなたはひょっとして組織とも
組織外の人々ともつながりを持つ、連結部品のような存在になれるかもしれない。
ビル・ゲイツやスティーブ・ジョブズがまさにそうだ。社会的な組織のメンバーである
と同時に、熱烈なテクノロジー愛好家とも緊密なつながりを持っている(ジョブズはすで
に故人だが)。
現在、「組織に属さない人たち」とのつながりを持つCEOは、ほんのわずかしかいない。
多くの企業でアイデアが枯渇しているのは、仕方ないことなのかもしれない。
結論。ゴッホのような生き方をするよりも、ゴッホの絵を壁にかけておくほうがいい。
けれども一番いいのは、できるだけ多くの現代のゴッホたちと交流を持つことだ。
彼らの斬新な視点は、あなた自身にも、あなたの人生によい影響を与えてくれるはずで
ある。
○ 枯渇(こかつ)
1. 水がかれること。かわいて水分がなくなること。「泉が—する」
2. 物が尽きてなくなること。「資源が—する」「創造力が—する」
この続きは、次回に。
2025年2月10日
株式会社シニアイノベーション
代表取締役 齊藤 弘美