Think clearly シンク・クリアー ㊼-1
47. 期待を管理しよう—期待は少ないほうが幸せになれる
□ 期待して参加した年越しパーティーの結末
(中略)
パーティーは、まったくの期待外れに終わった。前より二○フラン貧乏になっただけで、
収穫はゼロだった。
□ 「必然」「願望」「期待」どれに当たるかを見きわめる
脳は、常に何かを「期待」している。絶えず期待を生み出しつづける、機械のような
ものだ。
(中略)
だが脳は、「不定期に起きる出来事」に対しても期待する。
私が年越しパーティーでつらい思いをしなければならなかったのも「期待」が大きすぎ
たせいだ。パーティーに対する期待が現実になる可能性を、少しでも冷静に検討してい
たら、私はあれほど気を落とさずにすんだだろう。
「期待」が幸福感に決定的な影響を与えるのは、研究に裏打ちされた事実だ。非現実的
な期待は、幸福感を大きく損なう。
たとえば、所得の増加で幸福感が増すのは、だいたい年収一○万ユーロ(約一二○○万円)
の人までで、それを上回る年収のある人の幸福度は、所得が増えても変わらない(第15章
参照)。
だがこの境界以下の年収の人でも、所得アップのスピードが期待していたよりも遅かった
場合は幸福を感じられないことが、ロンドン・スクール・オブ・エコノミクスの心理
学者、ポール・ドーランによって証明されている。
では、「期待」にはどう対処するのが一番いいのだろう? 私は、救急医が治療の緊急度
にしたがって患者に優先順位をつける「トリアージ」のように、あなたの考えを整理す
ることをおすすめしたい。
あなたの頭の中にある考えが、「しなければならないこと」「したいこと」「できれば
いいなと思うこと」のどれに当たるかを見きわめるのだ。
「しなければならないこと」は必然、「したいこと」は願望(好みや目標)、「できれば
いいなと思うこと」は期待である。
これらの「三つの思考」を明確に区別できるよう、これからそれぞれのカテゴリーに
ついて順に考察していくことにしよう。
□ 人間が手に入れたいと願うものは「取るに足りない好み」
「絶対にCEOにならなきゃいけない」とか、「小説を書かなければならない」「どう
しても子どもが欲しい」といった言葉を耳にする機会は多い。
だが、どうしても「しなければならない」ことは、実はこの中にはひとつもない。息を
したり、飲んだり食べたりする以外のことはしなくても、生きていくのにまったく支障
はない。
本当に必要なことは、願望とは関係なしに行われるものなのだ。だから先に挙げたせり
ふは、「CEOになりたい」「小説を書きたい」「将来子どもが欲しい」というほうが
適切である。
「願望」を人生の必然事項のように考えている人は、気難しく、不機嫌になる。そうす
ると、どんなに聡明な人でもバカげた行為をすることになる。
人生の「必然」事項だとあなたが思い込んでいるものは、できるだけ早くそのカテゴリ
ーから外したほうがいい。
次に、「願望」。願望(好みや目標)のない人生は味気ない。それでも、願望の実現を
人生の史上目標にしてはいけない。願望は必ずかなうわけではないと常に頭に入れて
おこう。
世界には、あなたにコントロールできないことがたくさんある。あなたがCEOになれ
るかどうかは、監査役会の決定のほかに、ライバルの動きや、株式市場の動向や、報道
のされた方や、あなたの家族の状況などによって左右される。
どれも、完全にはあなたのコントロール下にないものばかりだ。小説を書きたい場合
にも、子どもが欲しい場合にも、同じことが当てはまる。
古代ギリシアの哲学者たちは、すばらしい言葉を持っていた。人間が手に入れたいと
願うものを「取るに足りない好み」と呼んだのだ。
つまり、どんな人にも好みはあるが(たとえばフォルクスワーゲンのゴルフよりポルシェ
が好きといった)、しょせん、そういったものは人生の幸福にとっては取るに足りない
要素でしかないということだ。
この続きは、次回に。
2025年2月12日
株式会社シニアイノベーション
代表取締役 齊藤 弘美