Think clearly シンク・クリアー ㊿-2
□ 出来事の背後には必ず「誰かの意図」があるのか?
「変化の裏には、誰かの意図が働いている」という考え方は、私たちの進化の過程から
来るものだ。何かが起きたときには「誰かの意図が働いている」と考えておいたほう
が、意図は存在しないと思い込むより、「安全」だったからだ。
(中略)
現在生きている私たちは、「何かの出来事の背後には、必ず誰かの意図がある」と考え
た人たちの生物学的な子孫である。その考えは、私たちの脳の中にしっかりと組み込ま
れている。
そのため私たちは、誰かの意図とは無関係に起きた出来事に対しても、誰かの意図や
その出来事の背後にいる誰かの存在を感じてしまう。
そうは言っても、アパルトヘイト撤廃のような出来事が、ネルソン・マンデラなしで
どうやって起こりえるというのだろうか?スティーブ・ジョブズのような独創的な人物
以外に、誰がiPhoneを考え出すことができたというのだろうか?
「出来事の背後には必ず誰かの意図がある」という考えによれば、世界の歴史は「偉人
たち」の歴史となる。
イギリス人の有能なサイエンス・ライターであり政治家でもあるマット・リドレーは、
著書『進化は万能である』の中で、こんな「偉人」論を展開している。「私たちには、
たまたまタイミングよくその場所にいた聡明な人物を、褒めたたえすぎる傾向がある」。
だが、啓蒙主義者はすでにこの事実を把握していた。啓蒙主義の思想家、モンテスキュ
ーはこう書いている。「マルティン・ルターは宗教改革をもたらしたことになっている。
(中略)だが、宗教改革はいずれにせよ起きていただろう。ルターがいなければ、ほかの
誰かが改革していたはずだ」。
□ 歴史をつくった「人物」などいない
西暦一五○○年頃、ポルトガルとスペインの征服者たちは、少人数で中南米諸国を侵略
し、アステカとマヤとインカという三つの帝国を、短期間で崩壊させてしまった。
どうしてそのようなことが可能だったのだろうか?
征服者コルテスがとりわけ賢かったからでも、能力が高かったからではない。
たんに無謀な征服者たちが、そうとは知らずにヨーロッパから「病気」を持ち込んだ
せいだ。
彼らには免疫があったが、土地の人々にとってその病気は致命的だった。
現在、中南米大陸の人が、スペイン語あるいはポルトガル語を話して、カトリックを
信仰しているのは、実は「ウイルス」と「細菌」による結果だったのである。
では、世界の歴史を形づくったのが、「偉人」と呼ばれるそうした征服者でなければ、
いったい誰がつくったのだろうか?
答えは、「歴史をつくった人物などいない」である。
そのときどきで起きる出来事は、その時代の流れや周囲の影響を大いに受けた結果生じ
た、偶然の産物にすぎない。歴史は、一台の車によってつくられるというより、むしろ
多くの車が行き来した結果として、できあがっていくものなのだ。
全体の舵取りをしている人間など、存在しない。
世界の歴史に秩序はなく、偶然に左右されるところも大きいため、先行きの予測は不可
能だ。細かく歴史的な資料を調べてみれば、大きな変化が起きる際には、必ず偶然の要
素が含まれているのに気づくはずだ。歴史上の「重要人物」は、当時起こった出来事の
登場人物のひとりにすぎないこともわかってくる。
「偉人」崇拝をしないのも、よい人生の条件の一つである。いうまでもなく、あなた
自身が「偉人」になれるかもしれないなどという幻想を抱かないようにすることも。
この続きは、次回に。
2025年2月26日
株式会社シニアイノベーション
代表取締役 齊藤 弘美