Think clearly シンク・クリアー 「52」-1
52. うちなる成功を目指そう—物質的な成功より内面の充実のほうが大事なわけ
□ 「フォーブスリスト」に掲載されているのは成功者?
こういうリストはどこの国にもあるだろう。スイスでは、経済誌『ビランツ』がその
リストを公表している。スイスの長者番付上位三○○人のリストである。
ドイツには、『マネージャー・マガジン』誌が毎年作成するドイツの長者番付上位
五○○人のリストがある。フランスの『シャランジュ』誌は毎年フランスの長者番付を
発表しているし、アメリカの『フォーブス』誌は毎年、世界の長者番付を作成している。
どのリストを眺めても、受ける印象は変わらない。世界の富豪は、企業家(もしくはその
相続人)ばかりだ。
同じようなランキングはほかにもある。もっとも影響力のあるCEO、論文が引用され
た回数がもっとも多い研究者、もっともよく読まれた作家、もっとも収入の多い芸術家、
もっとも成功しているミュージシャン、もっとも市場価値の高いスポーツ選手、もっと
も出演料の高い俳優。どんな分野にも「成功の度合いをはかるランキング」がある。
だがこれらの「成功者」は、実際にはどのくらい大きな成功を手にしているのだろう?
その答えは、「成功」をどう定義するかによって変わる。
社会における「成功」の基準は何か、社会において「評価」されるのは何か。
それによって、人々の行動は変化する。
アメリカ人の心理学者、ロイ・バウマイスターはこんなふうに書いている。「日々生死
をかけた闘いが行われている小規模な社会では、必然的に、もっとも多くのたんぱく質
を家に持ち帰る人(猟師)と、もっとも多くの敵を殺した人(闘士)が高い評価を受ける。
同様に、社会に人口を増やす必要があるかどうかで、母親の地位も上下する」。
現代社会が私たちに示す成功の基準は、「フォーブスリスト」だ(ここでは、先に挙げ
たようなランキングの総称としてこの呼び名を使うことにしよう)。
「目指すべき場所はここだ!」と言わんばかりに、誘導灯のように目立つ場所に掲げら
れている。
現代社会は、なぜ人々を「物質的な成功」に導こうとするのだろうか? それ以外の、
たとえばもっと時間的なゆとりのある方向に導くのではダメなのだろうか?
なぜ富豪のリストはあるのに、満ち足りた人生を送っている人のリストはないのだろうか?
理由は簡単だ。社会をひとつに結びつけているのは、「経済成長」だからだ。
「生活水準が上がる見込みがありさえすれば、そこまでの道程がどんなに遠くても、
富の分配を求める気持ちには歯止めがかかる」と銀行家のサタジット・ダスは書き、
そのうえで、アメリカの中央銀行で理事を務めたヘンリー・ウォーリックのこんな言葉
を引用している。「経済成長が続いていれば、人々は希望が持てる。そして希望があれば、
大きな所得格差も耐えられるものになる」。
この続きは、次回に。
2025年3月4日
株式会社シニアイノベーション
代表取締役 齊藤 弘美