お問い合せ

Think clearly シンク・クリアー 「52」-2

□ 内なる成功とは「平静な心」を手に入れること

 

つい最近、ある友人がたいそう誇らしげに、何とかという億万長者にディナーに招かれ

たと知らせてきた。私は肩をすくめた。なぜそれを誇らしく思うのかが理解できなかっ

たからだ。

どうして億万長者にそれほど会いたがるのだろう? 億万長者に会ったからといって、

お金をプレゼントしてもらえるわけでもないというのに。だったら重要なのは、その

人物が話し相手として面白いかどうかだけだ。資産の額は何の関係もない。

私はあなたに、まったく別の「成功の定義」をご紹介しようと思う。少なくとも二○○○

年前から存在している定義で、おまけにこの定義における成功は、社会の評価に左右さ

れることも、通俗的なランキングの対象になることもない。

その定義とは「内なる成功こそ、真の成功」だというものだ。

「内なる成功」というのは、心の充実や平静さを手に入れることだ。平静な心を保つのは、

幸福な人生を送るためのもっとも有効な手段のひとつであり、同時に西洋思想では理想

とされる心の状態でもある。

すでに言及したとおり、古代ギリシアや古代ローマの哲学者たちは、こうした心の内側

の成功を「アタラクシア」と呼んだ。アタラクシアに到達して心の安らぎを手に入れた

人は、不運に見舞われても取り乱すことはない。高く飛行しようが緊急着陸をしようが、

心の平静は乱されない。

では、「内なる成功」を手にするにはどうすればいいのだろう?

それには、私たちが影響を及ぼせることだけに意識を集中させ、それ以外のことは一貫

して意識から切り離しておくことだ。つまり、「外の世界」ではなく、「自分の内側」

に意識を集中させるのである。

自分の内側はコントロールできても、常に偶然の要素が働く外の世界に対しては、私た

ちは力を持たない。お金や、権力や、人気といったものを、自分でコントロールするの

はほぼ不可能だ。それなのにそうしたものに重きをおいていると、それらを失ったとき

にひどく動揺してしまう。

ところが、落ち着いた「平静な心」を身につけていれば、どんな出来事がふりかかろうが、

あなたはかなりの確率で幸福でいつづけていれば、「内なる成功」は、外の世界の成功

よりも安定している。

 

□ 墓地で一番裕福な人間になるより、いま人生を充実させる

 

ジョン・ウッデンは、アメリカのバスケットボール史上、抜きん出た業績をあげた名コ

ーチだった。

ウッデンは選手たちに、「成功」をまったく違う角度から捉えるよう指導していた。

「成功とは、最高の自分になるために全力を尽くしたあとに得られる、心の平和のこと

だ」と。

つまり「成功」を、タイトルやメダルの獲得数や移籍金の額ではなく、「心の状態」と

して定義づけたのだ。

皮肉にも、ウッデンがアメリカで最高位の勲章である「大統領自由勲章」を受章したとき、

それを授与した当時の大統領は、物質的な成功をふんだんに享受に大きな感慨を覚えて

いたのは、受章したウッデン本人よりも、ブッシュの方だったに違いない。

だが実際、100パーセント「内なる成功」だけを求めて、外の世界の成功をまったく気に

しない境地に完全に到達できる人はまずいないだろう。けれども、日々もトリーニングを

重ねていけば、私たちも「アタラクシア」の理想に近づくことはできる。

一日の終わりに、その日の自分を批評する時間を持とう。

今日はどこに問題があっただろうか? 今日一日のどこかの部分を毒のある感情で台無し

にしてしまっただろうか? あなたのコントロールの外にある出来事のうち、あなたを

動揺させたのは何だっただろう? その同様から立ちなおるのに、どの精神的な道具を

使っただろうか?

 

死ぬときに墓地で一番裕福な人間になっているよりも、「内なる成功」に向けて努力

して、いますぐに人生を充実させたほうがいい。

「その日その日を人生最高傑作の日にしよう」。ウッデンはいつも選手たちにそう言って

いたという。

あなたも同じことを心がけよう。「内なる成功」に完全に到達することはできなくても、

生きている限り努力しつづけることはできる。あなたの内面を平静にできるのは、あなた

以外にはいないのだ。

けれども、裕福さや、CEOになった人がポジションや、金メダルや何かの賞など、外の

世界での成功を目指している人たちも、本人たちがそれと気づいていないだけで、実は

内側の成功を目指している。

たとえば、CEOになった人がボーナスでわざわざ二○万ユーロもするIWCの腕時計を買う

のも、実用目的というより、自分の手首を眺めて、あるいはその腕時計に向けられる

羨望のまなざしを通して満ち足りた気分を味わいたいからだ。CEOになって手に入れ

た経済力であえて高い時計を買い、充足感につなげているのである。

どこをどう経由しても、結果は同じだ。外の世界での成功を目指している人たちも、

その目的は結局、心を充実させることなのだ。

それならば、精神的幸福を得るために、どうして外側の成功という回り道をしなくては

ならないのだろう。初めから内面の成功を目指したほうがいいのではないか。

幸せな人生の秘訣は、最初から「内なる成功」を目指すことなのだ。

 


 

この続きは、次回に。

 

2025年3月6日

株式会社シニアイノベーション

代表取締役 齊藤 弘美

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