書籍「Effectuation エフェクチュエーション」 ⑥
✔︎ 創造される事業機会
こうしたエピソードは、ウォークマンにとっての事業機会は、すでにどこかに存在して
いた潜在ニーズを綿密な調査によって発見したものではなく、意図的に機会を探す行動
が採られたわけではないことがわかります。むしろ機会は、井深氏をはじめ、それに
関わった人々が自分にとって有意味で価値があると考えることを実行した、予期せぬ
結果として作り出されたものでした。つまり、自分たちがすでに活用できる一組の手段
が所与として存在しており、そうした既存の手段を変換することによって新しく意味の
あらゆるものを作り出そうとした成果が、世界中の人々の生活様式を変えるイノベーシ
ョンを生み出したといえます。これは、予測ではなくコントロールによって新たな価値
を創造する、エフェクチュエーションのプロセスであるといえるでしょう。
だからこそ、仮にあなたが世界を変える仕事をしたい、イノベーションを生み出したい、
という大志を抱いていたとしても、そのためのアイデアの閃きや機会(チャンス)の到来
を待つ必要もありません。イノベーションの機会は、社会経済環境の変化に伴って生じ
た潜在ニーズや、新しい技術の開発や移転、規制の緩和・強化を含む制度変化、あるい
は純粋な閃きのなかから発見されることも確かにあるでしょうが、一方で、あなた自身
の個人的な満足や不満足、すでに確率された技術、経験に基づく知識やたまたま耳に
した情報、過去に却下されたアイデアからも、しばしば生み出されるのです。
そしてアイデアそれ自体よりも、それを形にして他の人々からのコミットメントを得る
行動が、より重要です。なぜならば、あるアイデアが優れたビジネスになるかどうかを
確かめる唯一の方法は、その製品・サービスを必要としてくれる顧客や、その実現可能
性を高めるために自らの資源・能力を提供してくれパートナーを獲得することを通じて、
アイデアの実効性を高めることでしかないからです。
✔︎ 2つの見方が可能にする異なるアプローチ
・ エフェクチュエーションは、必ずしも最初から機会が見えているわけではない。
またマーケティング・リサーチによってニーズや潜在顧客を特定することができな
いために、コーゼーションが機能しないように極めて不確実性の下であっても、
新しい事業や組織、市場の機会を一歩一歩創造していくことを可能にするアプロー
チです。
・本書を通じて提案したいのは、これまで私たちの世界に対する合理的な対処の仕方は、
コーゼーションに偏っていたのではないか、ということです。そうしたなかで、うま
く前に進めずに苦しい思いをしていた方にも、エフェクチュエーションという、もう
1つの方法を知っていただくことで、新しいチャレンジに一歩を踏み出す後押しがで
きればと考えています。
この続きは、次回に。
2025年9月21日
株式会社シニアイノベーション
代表取締役 齊藤 弘美