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書籍「Effectuation エフェクチュエーション」 ⑦

第2章 手中の鳥の原則

 

あなたが手にしている1羽の鳥は、姿の見えない多くの鳥より価値がある

 

エフェクチュエーションを構成する5つの思考様式には、それぞれユニークな名前が

付けられています。そのうち、「目的主導」で最適な手段を追求するコーゼーション

とは対照的に、自分がすでに持っている「手持ちの手段(資源)」を活用し、「手段主

導」で何ができるかを発想し着手する思考様式は、「手中の鳥(bird-in-hand)の原則」

と呼ばれます。

この名称は、英語のことわざである「A bird in the hand is worth two in the bush.(手中

の1羽は、藪の中の2羽の価値がある)」に由来するものです。鳥を得たいと思っている

人は、藪の中から姿の見えない複数の鳥の声が聞こえると、そちらを捕まえに行きたい

気持ちに駆られるかもしれません。しかし、すでに1羽の鳥を掌につかんでいるので

あれば、捕まえられるか不確かな鳥を追い求めるよりも、手中の1羽の鳥を大切にすべ

きである、という意味の言葉です。多くの人は、すでに持っているものを過小評価して、

持たない資源を追い求めがちですが、そのために手にしている1羽が逃げてしまう、

あるいは少なくとも十分に活用されない恐れがあることを戒める意味も感じられるかも

しれません。

熟達した起業家にたいする意思決定実験から発見された「手中の鳥の原則」という思考

様式は、彼らが不確実な資源を追い求めるのではなく、自分がすでに手にしている手段

を活用して、すぐに具体的な行動を生み出すことを意味しています。実験データからは

彼らが共通して活用する3種類の「手段」のカテゴリが浮かび上がってきました。

 

1つ目は、「私は誰か(What I am)」です。これは、特性や興味、能力や性格など、その

起業家のアイデンティティの構成要素を指しています。

 

2つ目は、「私が何を知っているか(What  I  know)」です。これは、起業家が活用でき

る知識を指しますが、彼らの事業に直接関係する専門的な知識やスキルに限定される

わけではありません。趣味や過去に受けた教育から得た知識、あるいは人生経験を通じ

て獲得した経験則や信念のようなものも、「何を知っているか」の一部であるといえます。

 

3つ目は、「私は誰を知っているか(Whom I know)」です。これは、起業家が頼ること

のできる人とのつながり、社会的ネットワークを意味します。熟達した起業家は、具体

的にどのような事業を実現すべきかという目的が明確でない状況下でも、これらの手段

に基づいて「何ができるか」を発想し、実行可能な複数の行動方針を生み出していました。

上記の3種類の手段に加えて、「余剰資源(Slack)」を考慮することも有効です。

余剰資源とは、組織や社会が所有す流ものの、必ずしも必要とされていない資源であり、

合理的な意思決定を前提とするならばムダや非効率とみなされることもある技術など、

さまざまな余剰資源が存在する可能性があります。こうした余剰資源は、起業家自身が

所有する資源ではなくとも、他の人々がそれを重視していなかったり、そもそもその

存在にすら気づいていなかったりするため、起業家が個人的に活用することも容易で

あり、やはり手持ちの手段と考えることができます。


 

この続きは、次回に。

 

2025年9月27日

株式会社シニアイノベーション

代表取締役 齊藤 弘美

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