お問い合せ

書籍「Effectuation エフェクチュエーション」 ⑮

許容可能な損失に基づいた行動は成功にもむすびつきやすい

 

・まずは手持ちの手段(資源)と許容可能な損失の範囲で最初の一歩を踏み出すことは、

 期待利益に基づいた最適な一歩を踏み出そうとすることよりも、容易であるだけでは

 なく、いくつかの理由から、起業家が新規性の高い事業を生み出し、成功させる可能

 性をも高めると考えられます。

 第一に、先ほど述べたように、小さくても行動を起こすことで初めて得られる成功や

 失敗の経験が、起業家にとって重要な学習機会となるためです。期待通りの結果が得

 られなくても、許容可能な損失の範囲で行動する限り再チャレンジが可能になるため、

 上手くいくと期待したやり方が機能しなければ、方法を修正して、次のチャレンジに

 活かしていくことができます。

 第二に、手持ちの手段(資源)の創造的な活用を促し、無駄を減らすことができるため

 です。成功した場合に得られるリターンを基準に考える場合には、その実現にとって

 望ましい資源(資金・時間・労働)がすでに手にしている手段(資源)とは無関係に見積

 もられ、そうした新たな資源の調達に発想が向かいがちです。これに対して、許容可

 能な損失という基準に基づく行動では、損失可能性を小さくするためにすでに手に

 している手段(資源)を最大限に活かして、本当に必要な資源のみを新たに調達しよう

 と発想するでしょう。その結果、無駄な投資が抑えられるのと同時に、起業家が持つ

 資源の制約を反映した、高い創造性が発揮される可能性があります。

 

・最後に、許容可能な損失に基づく意思決定は、「成功するかどうか」や「儲かるかど

 うか」という利益以外の基準で、本当に自分にとって重要な取り組みを選択すること

 を可能にします。

 うまくいかなかった場合をあらかじめ想定してコミットメントを行う意思決定では、

 起業家はそうした損失可能性を覚悟したうえで、「本当に自分はそれをやりたいの

 か」を改めて自問することになるでしょう。また挑戦しなかった場合に失うだろう

 機会損失には、うまくいった場合のリターン以上に、自分のアイデンティティや志、

 自己実現の可能性といった要素が、深く関わっていることに気づく場合もあるでしょう。

 期待利益に基づく意思決定が、成功見込みやリターンの大きさといった、起業家自身

 にとって外的な要素を考慮するのとは対照的に、許容可能な損失の評価は、起業家が

 自身の内的な要素や価値観を改めて振り返る意思決定になる可能性があります。

 だからこそエフェクチュエーションを活用する起業家は、他の誰もが採用したことの

 ない新たな行動を、合理的に選択していくことが可能になるのです。


 

この続きは、次回に。

 

2025年10月30日

株式会社シニアイノベーション

代表取締役 齊藤 弘美

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