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書籍「Effectuation エフェクチュエーション」 ㉚

第7章 飛行機のパイロットの原則

 

熟達した起業家の世界観

 

エフェクチュエーションを構成する5つの原則として、最後に説明するのは、「飛行機

のパイロット(pilot-in-the-plane)の原則」です。一言で述べるならば、「コントロール

可能な活動に集中し、予測でなくコントロールによって望ましい成果に帰結させる」と

いう思考様式になります。

これまでにすでに確認してきたエフェクチュエーションの4つの思考様式は、「何がで

きるか」を発想する際の「手中の鳥の原則」、行動へのコミットメントを決定する際に

用いる「許容可能な損失の原則」、他者との相互作用における「クレイジーキルトの

原則」、予期せぬ事態に対処する際の「レモネードの原則」といったように、それぞれ

が不確実性を伴う具体的な意思決定の局面で活用されるものでした。それに対して、

「飛行機のパイロットの原則」は、そもそも不確実な未来に対して熟達した起業家が

持つ世界観を反映したものであり、上記の4つの思考様式によって駆動されるエフェク

チュエーションのサイクル全体に関わっているものと理解できます。

その世界観とは、次のようなものです。コーゼーションとエフェクチュエーションの

いずれもが、未来を望ましい形にコントロールすることを目指していますが、コーゼー

ションが「不確実な未来のなかで、予測可能なものは何か」に焦点を合わせるのに対し

て、エフェクチュエーションは、「予想できない未来のなかで、コントロール可能な

ものは何か」に焦点を合わせます。

言い換えると、コーゼーションの思考では、「予測できる範囲において、われわれは

未来をコントロールできる」ことを前提に、不確実な未来を何かと予測しようと努力

することで望ましい結果を得ようと考えがちです。これに対して、「コントロールでき

る範囲において、予測は不要である」ことを前提に、未来は人間の行為によって作られ

るものだと考え、自分たちがコントロール可能な要素に働きかけることを通じて、未来

の環境の一部を創造する行動に集中し、望ましい結果に帰結させようと努力するのです。

たとえば、サラスバシーの意思決定実験に協力した熟達した起業家は、いまだ市場が

存在しない製品を事業化する意思決定に際して、市場調査のデータを基に最適なセグメ

ントをターゲットに選択しようとする、といった予測的なアプローチを誰一人として

用いませんでした。むしろ、彼らがとったのは、たとえば「誰を知っているか」のなか

で最初の顧客になりそうな人を想定して電話を掛ける、といった、コントロール可能な

手持ちの手段に働きかけて、さらにコントロール可能性を高めようとする行動だったの

です。

こうした思考様式に特徴づけられるエフェクチュエーションは、「非予測的コントロー

ル(non-predictive control)」の論理ともいわれています。


 

この続きは、次回に。

 

2025年12月23日

株式会社シニアイノベーション

代表取締役 齊藤 弘美

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