企業とは何か-⑰
終章 成功がもたらす失敗 エピローグ(1983年)
本書は、世界中の企業、公的機関、NPO(非営利組織)に大きな影響を与えた。
しかし当のGMにはいかなる影響もあたえなかった。
GMの経営幹部、特にスローンに受け入れられなかった。
本書については一行たりとも言及しなかった。GMのどの経営幹部の部屋にも置かれなかった。
スローンお気に入りのGMインスティチャートの教材リストにも入れられず、伝え聞くところでは
図書館にも置かれなかった。あたかも存在していないかのようなこれらの扱いこそ、GMの本書に
対する対応であり態度だった。理由は三つあった。
いずれも、戦後のGMの成功のもとととなりその後の不振のもととなったものだった。
第一が、経営政策についての考え方だった。
第二が、従業員関係についての提言だった。
第三が、大企業は公益に関わりがあるとする考えだった。
・不変のマネジメントは存在しない
第一に気に入らなかったことが、戦後の平時生産への復帰にあたって、経営政策を見直すべきで
あるとする私の考えだった。これを唐突かつ破壊的であるとした。
私はただ、マネジメントというものは、20年もすれば時代に合わなくなりうるものであって、4年間に
及ぶ戦時生産から平時生産への復帰は、あらゆる経営政策を新たに見直す絶好の機会になると
指摘しただけだった。
経営政策というものは、人が考えたものであるから唯一絶対たりえず、せいぜいのところ、正しい
問いを見つけるための問題提起にすぎないというものだった。
もちろん私は、基本的な価値、特に人の価値は信じている。基本的な問題も知っている。
しかし唯一無二の答えというものは信じない。いかなる答えにも間違いのおそれがある。
少なくとも、あらゆる答えを試してみるまではそのおそれがある。しかも経営政策を含め人間社会に
関する事柄において重要なことは、正しいか間違いではない。うまくいくかいかないかである。
・従業員政策についての提言
第二に、戦後の従業員関係の基本は、仕事と製品に誇りをもちたいという従業員の意欲に置くべきで
あり、労働力はコストではなく資源としてとらえるべきである旨を提言した。
具体的には、平時生産復帰後は、私が責任ある労働者、マネジメント的視点、職場コミュニティと
名付けたものを追求すべきことを提言した。
・「私の仕事-気に入っている理由」
従業員の意識調査より、「従業員がいかに製品や企業との一体感を求め、仕事や品質に責任をも
ちたがっている」かが明らかだった。
○ いちばん気に入ってことは、仕事の改善について提案を期待されていることである。
○ 気に入っているのは職場と賃金である。
○ 景気のよい大企業で働いていることである。
○ 気に入らないのは、仕事を大幅に改善する方法を知っているのに誰も聞いてくれないことだ。
この続きは、次回に。